歌舞伎の演目を知った上で「国宝」を鑑賞すると、この映画への理解がより深まる。

①関の扉
『積恋雪関扉』(つもるこい ゆきの せきのと)、通称『関の扉』(せきのと)は、常磐津節及びそれに合せて演じられる歌舞伎舞踊の演目のひとつ。
雪の山中に咲きほこる満開の桜の下のファンタジー、桜の精と天下を狙う謀反人が繰り広げる美しき戦い。
雪に閉ざされた逢坂山では、なぜか小町桜が満開。
樹齢300年余りの桜の花は、薄墨色であった。
亡くなった帝の忠臣・宗貞は、政変に巻き込まれこの地で侘しく暮らしている。
宗貞と関守の男・関兵衛が関を守っていると、宗貞の恋人・小町姫が通りかかり、やりとりを交わす中で関兵衛の素性を怪しむ。
実は、関兵衛は天下を狙う大悪人の大伴黒主。皇位を奪うのに必要な宝物を盗み出す機会を狙っていた。
そんな中、大盃に映った夜空の星で占うと、今宵桜を伐りたおし護摩木にして焚けば、大願成就との吉相が。
桜の木を切ろうとした関兵衛の前に、遊女・墨染(実は小町桜の精)が現れ両者は激しく争うことに…。
国宝公式サイトより
②連獅子
百獣の王:獅子(ライオン)は、我が子を谷に落とす試練を与えて、這い上がってこられるかどうかを試す、という中国の故事に由来している。
獅子の厳しい英才教育、父は子をけわしい谷底へ蹴落とす、深い愛を胸に秘めて。
霊山である清涼山。
獅子頭を持った狂言師の右近と左近は、清涼山にかかる神仏の力によって出現した石橋を舞で表現。
そこでは獅子が牡丹に戯れている。
獅子には試練として我が子を谷底に落とし、駆け上がってきた強い子だけを育てるという伝説がある。
親獅子は、何度も何度も深い谷に子獅子を突き落とす。
なかなか登ってこない子獅子を思う親獅子の影が水面に映ると、その姿を見た子獅子は自らを奮い立たせ、一気に谷を駆け上っていく。
やがて清涼山の麓に、法華宗と浄土宗の僧が現れ、どちらの宗派が優れているか言い争いに…。
互いの題目と念仏を取り違えたのち、吹き付ける暴風に二人は慌てて逃げていく。
そして石橋には親子の獅子が精となり現れ、牡丹の花に戯れて遊び始める。
やがて狂いと呼ばれる激しい動きを見せ、親子で息の合った毛振りを見せていく。
国宝公式サイトより
③二人藤娘
舞踊の人気演目である「藤娘」を坂東玉三郎と中村七之助の2人が演じるという新たな演出で、2014年に初演された歌舞伎の演目。
もとは絵から出て来た娘が踊るという趣向の五変化舞踊『哥へす哥へす余波大津絵』の一曲だったが、六代目尾上菊五郎が娘姿で踊る藤の精という内容に変えて演出を一新して以来その型が一般的になり、今日でも人気の歌舞伎舞踊の演目の一つであるばかりか、日本舞踊でも必須の演目の一つとなっている。
近江の大津の付近で、松の大木に絡みつく藤の花。
その大木の下に二人の娘が現れるが、実はこの二人の正体は藤の精である。
二人は、思い通りにならない男心と切ない女心を語り合い、近江八景の歌に合わせて、男の浮気性をなじって拗ねたり、もどかしい恋心を切々と踊り出す。
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④二人道成寺
歌舞伎舞踊の代表的な演目のひとつ。
女が恋の成就を願って大蛇と化し、安珍を焼き殺す道成寺伝説を基にした作品。
歌舞伎の「二人道成寺」は、歌舞伎舞踊の大曲「京鹿子娘道成寺」を、二人の白拍子花子が演じる。
舞台は桜が満開の道成寺。
道成寺には逃げていく男を追いかけるうちに大蛇になってしまった女が、鐘に隠れた男を鐘ごと焼き殺してしまったという伝説がある。
そのため、道成寺には長らく鐘がなかったが、再興されることに。
この鐘を供養するため、芸を見せる女芸人である白拍子が訪れる。
しかし実は、この白拍子は男を焼き殺した女の霊であった。
男を隠した鐘に対して、未だ恨みを持つ女の霊は、様々な舞を披露していき、やがて鐘に上ると蛇体の本性を現わすのだった。
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⑤曾根崎心中
元禄時代の大坂で実際に起きた心中事件をもとに、近松門左衛門が創作した名作。
心中によって恋を成就させることによって、二人の魂が浄土へと導かれるという革命的な解釈が、はじめて近松門左衛門によって披露されたのが、この人形浄瑠璃『曾根崎心中』である。
この世で遂げられぬ恋は、あの世で成就される、と思わせる力がこの浄瑠璃にはあった。
江戸幕府は享保8年(1723年)、「曾根崎心中」を上演禁止とし、心中による死者の葬儀も禁止した。
葬儀禁止は成仏妨害策である。
それから232年後の昭和30年になって、この浄瑠璃はようやく復活される。
徳兵衛と遊女のお初は、恋仲である。
醤油屋の手代:徳兵衛は、友人だと思っていた九平次に金を騙し取られ、さらには徳兵衛が九平次に金を貸した証文は偽物であると人々の前で罵られ、面目を潰されてしまう。
行き場のない徳兵衛がお初のもとを訪ねると、そこへ九平次がやってくる。
お初は、着物の裾で徳兵衛を縁の下へと隠す。
徳兵衛の悪口を言う九平次に、お初は抗議を口にし、独り言と見せかけ、縁の下の徳兵衛に「死ぬ覚悟はあるのか」と問う。
徳兵衛は、お初の足首を喉に押し当てて答えとする。
のちに九平次の悪巧みがばれ、徳兵衛の無実が明らかになるも時すでに遅し、徳兵衛とお初は曽根崎の森へと向かい、心中を果たす。
国宝公式サイトより
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