<午前十時の映画祭>
「一度、スクリーンで観たかった。もう一度、スクリーンで観たかった。」
4月1日~3月30日を1年として、2週間代わりで素晴らしい名作映画を公開しているこの企画。
作品によっては「1週間限定公開」もあるので御注意を。
午前10時とあるが、作品によっては10時より前に上映することもあるので、上映映画館のスケジュール確認は必須。
公式HPでは
- 上映開始時間は<午前10時に限定せず>それぞれの劇場の判断で<午前中の上映開始>となります。
- そのため、上映開始時間は劇場ごとに、また作品によっても異なります。
- また、鑑賞料金も各劇場が設定した料金となりますのでご了承ください。
- ご鑑賞前に各劇場の公式サイトなどでご確認をお願いいたします。
私の住む街:栃木県では「ユナイテッド・シネマ アシコタウンあしかが」と「TOHOシネマズ宇都宮」の2ヶ所で上映している。
あらすじ
港町税務署のやり手調査官:板倉亮子は、管内のパチンコ店の所得隠しを発見したり、老夫婦の経営する食品スーパーの売上計上漏れを指摘するなどの仕事をしている。
そんなある日、実業家:権藤英樹の経営するラブホテルに脱税の気配を感じて調査を行うが、強制調査権限のない税務署の業務の限界もあり、巧妙に仕組まれた権藤の脱税を暴くことができずにいた。
そんな中、亮子は強制調査権限を持つ東京国税局査察部の査察官(通称:マルサ)に抜擢される。
着任早々に功績を挙げ、やがて仲間からの信頼も得るようになった亮子。
ある日、権藤に捨てられた愛人:剣持和江からマルサに密告の電話が入る。
亮子は、税務署員時代から目をつけていた権藤の調査を自ら進んで引き受ける。
亮子の努力が実を結び、権藤に対する本格的な内偵調査が始まる事になった。
キャスト
左から、俳優名、役名、役柄、人物像。
港町税務署員
宮本 信子 | 板倉 亮子 | 港町税務署員(のちにマルサに異動) | 仕事一筋でプロ意識が強く、洞察力と思考力に定評がある。おかっぱ頭に寝癖がトレードマーク。 |
露口 | 大滝 秀治 | 亮子の上司 | 亮子がマルサに抜擢されたことを父親のように喜ぶ。 |
秋山 | マッハ文朱 | 亮子の後輩 | 亮子から仕事のノウハウを教わっている。 |
山田 | 加藤 善博 | 亮子の後輩 | やる気に満ちている男性。 |
税務署長 | 嵯峨 善兵 | 港町税務署の署長 | 涼子の活躍を高く評価している。 |
国税局査察部(マルサ)
花村 | 津川 雅彦 | 亮子の直属の上司 | 熱血漢の国税局査察部統括官 |
伊集院 | 大地 康雄 | 亮子の同僚 | その容貌から「マルサのジャック・ニコルソン」の異名を持つ。 |
金子 | 桜 金造 | 亮子の同僚 | 張り込みに定評があり、ホームレスに扮して張り込むも不審者として連行されてしまう。 |
姫田 | 麻生 肇 | 亮子の同僚 | 高身長で活気のある男性。 |
査察部管理課長 | 小林 桂樹 | 亮子の上司 | 意外と「芝居」がうまい。 |
権藤ファミリー
権藤 英樹 | 山崎 努 | ラブホテルの経営者 | 歩行が不自由で杖を使用、金儲けに執着している。 |
権藤 太郎 | 山下 大介 | 権藤の一人息子 | 父とは正反対のおとなしい性格。 |
杉野 光子 | 岡田 茉莉子 | 権藤の内縁の妻 | いかにもな金持ち夫人。 |
権藤の関係者
蜷川 喜八郎 | 芦田 伸介 | 暴力団関東蜷川組の組長 | 亮子に税務調査に入られた事を根に持っている。 |
剣持 和江 | 志水 李里子 | 権藤の愛人(1号) | 愛ゆえに憎しみが増す。 |
鳥飼 久美 | 松居 一代 | 権藤の愛人(2号) | 権藤の手助けしている。 |
石井 重吉 | 室田 日出夫 | 権藤が経営するラブホテルの社長 | 権藤のブレーン。 |
その他
袴田 利兵衛 | 竹内 正太郎 | 末期がんで入院している老人 | 権藤によって勝手に袴田の名義で「袴田不動産」というダミー会社が作られてしまう。 |
看護婦 | 渡辺 まちこ | 袴田担当の看護師 | 権藤の手伝いをしている。 |
パチンコ店の社長 | 伊東 四朗 | パチンコ店の社長 | 特技はウソ泣き。 |
税理士 | 小沢 栄太郎 | パチンコ店の顧問税理士 | 気弱だが怒らせると怖い。 |
食料品店の夫婦 | 柳谷 寛、杉山 とく子 | 食料品店の夫婦 | 亮子に申告漏れを指摘され妻が逆上、夫はそれをなだめる。 |
宝くじの男 | ギリヤーク尼ヶ崎 | 資金洗浄屋 | 宝くじの当選金は非課税なので「脱税に使える」と持ち掛ける。 |
リネンサービス社長 | 佐藤 B作 | リネンサービス会社の社長 | 権藤のラブホテルにリネン類を卸している |
特殊関係人 | 絵沢 萠子 | 亮子がマルサ査察官として初めて臨んだ調査対象者の愛人 | 見事なM字開脚 |
染谷 | 橋爪 功 | 大谷銀行営業課長 | 調査に訪れた亮子に大量の書類を閲覧させ辟易させる |
特殊関係人 | いわゆる愛人のこと |
1987年公開(昭和62年)
1987年は昭和62年、出来事を書きだす。
- Apple Computerが「Macintosh II」と「Macintosh SE」を発表
- 国鉄分割民営化により日本国有鉄道が解散、分割民営化により発足したJR(旅客6社・貨物1社)に事業を継承
- 世界の人口が50億人突破
- 国家社会主義ドイツ労働者党副総統のルドルフ・ヘスが収監されていたシュパンダウ刑務所で自殺する、これでヒトラー内閣に所属経験のある人物は全員この世を去った
- ニューヨーク株式市場が大暴落(ブラックマンデー)、世界同時株安に陥る
- 全米女子プロゴルフ選手権で岡本綾子が日本人初の外国人賞金王となる
- 金賢姫による大韓航空機爆破事件発生
- 1987年の映画
- 1987年の音楽
1987年当時の映画館入場料金は1,500円。
2023年では1,900円~2,000円、物価上昇に伴っての値上げは今や日常茶飯事である。
1987年 日本配給収入ランキング
作品名 | 製作国 | 興行収入 | 公開日 |
トップガン | アメリカ | 39.0億円 | 1986年12月6日 |
ハチ公物語 | 日本 | 20.0億円 | 1987年8月1日 |
プラトーン | アメリカ | 18.0億円 | 1987年4月29日 |
アンタッチャブル | アメリカ | 17.5億円 | 1987年10月3日 |
ドラえもんのび太と竜の騎士・プロゴルファー猿 | 日本 | 15.0億円 | 1987年3月14日 |
竹取物語 | 日本 | 14.5億円 | 1987年9月26日 |
ビバリーヒルズ・コップ2 | アメリカ | 14.2億円 | 1987年7月11日 |
マルサの女 | 日本 | 12.5億円 | 1987年2月7日 |
男はつらいよ 知床慕情・塀の中の懲りない面々 | 日本 | 12.4億円 | 1987年8月15日 |
次郎物語 | 日本 | 12.3億円 | 1987年7月4日 |
昔の映画は「2本連続上映」があり、アニメ映画は2本立てというのが多かった。
そして、私の大好きな「トップガン」がランキング1位!嬉しさでニヤニヤが止まらない。
「マルサの女」制作秘話
「マルサの女」が誕生したのは、1984年公開の「お葬式」(伊丹十三の初監督作品)がキッカケ。
「お葬式」の利益から税金をガッポリ取られた伊丹十三が、税金や脱税について興味が湧き研究した。
世間が知らないリアルな世界にエンタテインメントなアレンジを加える伊丹ワールド、大ヒット映画となった。
マルサとは
国税庁と国税局に配置されている国税査察部などの部署のことで、査の字を丸で囲って「マルサ」とする俗称である。
- 東京国税局
- 大阪国税局
- 名古屋国税局
以上3局のみに査察部が設置されている。
大口かつ悪質な脱税や犯罪行為が疑われる事業者に対して調査を行う。
目安は1億円と言われている。
国税局の査察部が行う税務調査は、事前に何の連絡もなく、ある日突然多数の査察官がオフィスや自宅に乗り込んでくる「強制調査」はテレビドラマなどで見たことがあるだろう。
大量の段ボール箱を押収するシーンは、畏怖を感じさせる。
国税局と税務署
涼子は港町税務署の調査官から、東京国税局査察部の査察官(通称:マルサ)に抜擢される。
税務署と国税局の違いはなんだろう?
国税局 | 税務署の事務を指導監督する立場であるとともに、自らも大規模な法人や大口滞納者、大口脱税者の等の賦課・徴収を行っている。 | 強制捜査 |
税務署 | 管轄区域において内国税の賦課・徴収を行っている、税務行政執行の第一線機関になる。 | 任意調査 |
脱税
脱税とは、売上を隠したり業務とは関係のない領収書を経費として計上したりして、不法に税負担を軽減させ、納めるべき税金を不正な手段で意図的に逃れること。
- 収入を過少に計上する
- 経費を水増しして計上する
- 申告自体を行わない
所得隠し
意図的に売上を隠すこと。
権藤は「領収書を発行しないラブホテルは売上の除外がしやすくさらに利益率も非常に高い」ことに着目し、意図的に所得を隠して巨額の脱税をしている。
申告漏れ
計算ミスや計上ミスにより「うっかり」所得の申告をミスしてしまうこと。
所得隠しよりもペナルティは軽めになっていますが、追加で課税されるケースが多い。
無申告
確定申告の必要があるにも関わらず「意図的に」もしくは「うっかり」申告していないこと。
ここ最近ではチュートリアル徳井義実さんが記憶に新しい。
資金洗浄(マネーロンダリング)
作品の冒頭で、看護婦と老人のシーンがある。
権藤は、末期がんで入院中の老人:袴田の名前で架空の不動産会社を作り、袴田不動産名義の口座に現金を入れている。
このやり取りには意味がある。
「麻薬取引、脱税、粉飾決算などで取得した不正資金」や「違法な手段で入手したお金」を架空口座や他人名義口座などを利用して次々と移転することで出所を分からなくして正当な手段で得たお金と見せかけることで、捜査機関による差し押さえや摘発を逃れるためである。
この行為を資金洗浄(マネーロンダリング)という。
映画では、袴田名義の架空会社の口座に金を入れ、袴田が死去するとともに架空会社を潰して雲隠れしている。
非課税
宝くじの当選金は非課税、というのはよく知られたこと。
この映画で得た知識は「慰謝料は非課税」。
慰謝料は精神的損害に対する賠償であって贈与ではないので、金銭によって賠償される場合にはそれが相当な金額である限り税金は掛からない。
名俳優
滑舌の良い俳優ばかり。
畳み掛けるように早口で一気にセリフを言う俳優陣、どの言葉もハッキリと聞き取れる。
そして、観ていて驚いたのが「冷静を装う」この演技が格段にうまい。
演技ではなくドキュメンタリーなのでは?と思うほど。
格別 | 状態や物事が普通の場合と比べてはなはだしく優れている | 何か別の対象と比較した時に特に優っているという意味 |
別格 | ある一定の状態や様子、尺度には定まらないほどに格が違うこと、特別の取り扱いをすること | 何か別の対象と比較したときに違っているという意味 |
格段 | 程度が著しいこと、違いが特に大きいこと | 普通の物事や場合と非常に違うこと |
特段 | 普通とは違い、他の物とはっきりとした特別な違いや区別があること | 普通とは違う特別なこと |
表情筋がよく動く、顔のパーツごとに筋肉が動いていて、感情が見て取れる。
そして、表情だけでなくセリフにも感情があり、短い言葉のひとつにも機微がある。
機微 | 表面だけでは知ることのできない、微妙なおもむきや事情 |
あと、おっぱいがいっぱい出てくるのが伊丹作品。
BGM
BGMがシンプルでとても良い。
人が話すシーンでは、極力BGMを使っていない。
テーマ曲が流れるシーンは、ダイジェスト的なシーンが多く、あとはピンポイントで重要なシーンに使われていた気がする。
懐かしいもの
昭和62年、かなり懐かしいものがたくさん登場する。
観ていて「あぁ~そういえばコレあったな~」としみじみ。
いくつか挙げてみる。
アベック
いまでいうカップルのこと。
フランス語の「avec」(と一緒に)を意味するの前置詞をもじった和製フランス語。
英語由来の外来語「カップル」に押され、1990年代からは死語となった。
固定電話
今では見る機会が減った自宅の固定電話、特に黒電話は今ではアンティーク家電だ。
受話器と本体がネジネジしたコードでつながっている。
電話帳に住所
いまでは見ることも珍しくなったタウンページ。
企業や店舗の住所や電話番号が記載されている電話帳で、各家庭に無料配布された。
個人宅の住所と電話番号が記載された「ハローページ」もある。
タウンページ | 店舗や企業を探したい時に職業名・サービス名や広告から電話番号および、詳細情報を調べることができる電話帳 |
ハローページ | 名前の50音順に電話番号を探すことができる電話帳、「企業名編」と「個人名編」がある |
プライバシーの観点からすると個人情報を載せるのは危険だが、過去にはこういった出来事もあった。
コンピュータ
現代のパソコンはデザイン性の高いスタイリッシュなパソコンが多く、デスクトップも小型化し、ノートパソコンは薄型になった。
1980年代のコンピュータは、やたらとデカくて、ディスプレイもブラウン管のようにデカくて、かなりメカメカしい形をしている。
当時の記憶媒体といえばこれ、そう、フロッピーディスク。
そういえば、フロッピーディスクのゲームがあったのを思い出した。
懐かしさの極み。
移動電話(携帯電話)
現代でいうところの携帯電話。
昭和の頃は、かなりゴツいものだった。
わかりやすくいうと、平野ノラさんの「しもしも」のネタ。
ゴミ袋
当時のゴミ袋は、中身が見えない黒色のゴミ袋が使用されていた。
中身が全く見えないので何を捨てているのかわからない、ゆえに見られたくないものを捨てるのには都合よいゴミ袋だった。
現在では、半透明・もしくは透明のゴミ袋が使われている。
地域によっては自治体指定のゴミ袋を使うところもある。
カメラとゲーム
行動記録を取るために隠し撮りしてるカメラがデカい。
すべての機械が有線、そういう時代。
ゲームといえばファミコン(ファミリーコンピュータ)。
平面のマリオで、キノコが出てくる。
スーパーなマリオのブラザーズ、立体ではなくカクカクした8ビットの絵。
光と影
光と影の使い方が上手い。
黒澤映画の「赤ひげ」のよう。
「イメージ」の影響
ここ最近ではタレントや芸能人の不祥事により、CMや番組などの降板が相次いでいる。
たった1度の出来事や発言で、あっという間に仕事がなくなってしまう。
そこまですることか?大げさではないか?と思うかもしれないが、企業側からしたら大変なことである。
企業が大切にするもの、それは「イメージ」だ。
イメージの重要性、この映画でよくわかる。
とあるマンションでのこと、どこにでもある普通のファミリー向け賃貸マンション。
その一室に、権藤とその近しい人物が集まっている。
不動産物件は、ヤの人たち(暴力団)が出入りするだけで、不思議と人は寄り付かなくなる。
もめごとに巻き込まれるかもしれない、なにかしらの被害が及ぶかもしれない、怖い人たちが闊歩しているだけで何かと不安に駆られる。
「あのマンションにはヤの人たちがいる」そういうイメージを植え付けると、人は怖がって入居しなくなり、不動産としての価値は下がる。
それを安く買い、ヤの人たちを立ち去らせてから「そういう人は居ません」とイメージを良くしてから高く売る。
政治、銀行、裏社会、不動産、金、性欲は表裏一体であり、密接不可分。
不可分 | 切り離せない |
コーヒー
暴力団関東蜷川組の組長:蜷川喜八郎は、亮子に税務調査に入られた事を根に持ち、港町税務署に押し入りメガホンで喚く。
この騒動で税務署内はパニック状態、職員たちは何とかなだめようとするも暖簾に腕押し。
警察に連絡しようにも、犯罪が起きてからじゃないとどうにもできない。
「なにかが起きればいいのですね?!」と亮子は言い、蜷川組長にコーヒーを出すと……。
亮子の機転により、事態は収拾した。
愛と憎しみは表裏一体
愛があるから殺す。
愛があるから殺意が生まれる。
痴情のもつれでよくあるのが「アンタを殺してアタシも死ぬ!」というセリフ。
いまいち意味が分からなかったが、先日鑑賞した「パリタクシー」のなかで「愛があるから殺す」というセリフがあり、この言葉の意味がやっと分かった。
「楽らくして金を稼ぐな」
楽な稼ぎ方なんてないのに、なんでこう言うんだろう。
よしんば、思いのほか楽に金を稼げたとしよう、それのなにがいけないのかがわからない。
苦労して疲弊して金を稼ぐことが良いことで、楽して金を稼ぐことが悪いことなのだろうか?
ところで、人はなぜ金を渇望するのはなんでだろう?
執着?それとも依存?
目は口ほどに物を言う
日本人は目を大切にする。
目に「感情」が出るから。
「目の動きをよく見てくれ」
日本では目の動きや視線に感情が出る。
不安から、隠したいもの(隠しているもの)をチラ見してしまったり。
外国では口。
外国のヒーローは口が出ていて、悪者は口を隠している。
顔文字もそう、日本と外国では違う。
その昔、ライダーマンという仮面ライダーが居た。
1973年12月8日放送が初登場で、今までの仮面ライダーと少しデザインが違う。
これが子供たちに不評で……。
このライダーマン、実は……。
最後に
ものすごく面白かった!
久しぶりに良い作品を見た。
金と税金、難しい題材だが、コメディを交えておもしろおかしくすることで、誰にでもわかるように描いている。
この映画で、税金と税務署・国税局の職員について知ることができるし、広く知られることで抑止力にもなる。
私は、小さいながら店舗経営をしているので、こういった経理の話はとても身近で、本当におもしろかった。
経営に携わっていなかったら、この作品に興味を持つことも理解することも難しかっただろう。
納税は国民の義務、それは充分に理解している。
願わくば、常に、税金が正しく使われてほしい。
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