<午前十時の映画祭>
「一度、スクリーンで観たかった。もう一度、スクリーンで観たかった。」
4月1日~3月30日を1年として、2週間代わりで素晴らしい名作映画を公開しているこの企画。
作品によっては「1週間限定公開」もあるので御注意を。
午前10時とあるが、作品によっては10時より前に上映することもあるので、上映映画館のスケジュール確認は必須。
公式HPでは
- 上映開始時間は<午前10時に限定せず>それぞれの劇場の判断で<午前中の上映開始>となります。
- そのため、上映開始時間は劇場ごとに、また作品によっても異なります。
- また、鑑賞料金も各劇場が設定した料金となりますのでご了承ください。
- ご鑑賞前に各劇場の公式サイトなどでご確認をお願いいたします。
私の住む街:栃木県では「ユナイテッド・シネマ アシコタウンあしかが」と「TOHOシネマズ宇都宮」の2ヶ所で上映している。
あらすじ
日本公開日:1982年7月3日
主演:ハリソン・フォード
2019年、惑星移住が可能になった未来、酸性雨が降りしきるロサンゼルス。
強靭な肉体と高い知能を併せ持ち、外見からは人間と見分けがつかないアンドロイド「レプリカント 」、彼等は宇宙開拓の前線で過酷な奴隷労働や戦闘に従事していた。
レプリカントは製造から数年経つと感情が芽生え、主人である人間に反旗を翻す事件が発生した。
そのため、最新の「ネクサス6型」には、安全装置として4年の寿命年限が与えられたが、脱走して人間社会に紛れ込もうとするレプリカントが後を絶たず、地球へ脱走した彼等は違法な存在と宣告された。
そんな中で、4体のレプリカントが人間を殺して逃亡する。
彼らを抹殺する特任捜査官「ブレードランナー」のリック・デッカード(ハリソン・フォード)が、街に潜伏するレプリカントを追跡していく。
1982年が想像した「2019年」という未来
1982年というと、昭和57年。
いまから40年前、私は当時5歳、保育園に通っていた。
1982年の出来事
- ロックバンド:BOOWY結成
- ホテルニュージャパン火災
- 日本航空350便墜落事故
- 500円硬貨発行
- 小川宏ショー、17年の歴史に幕を下ろす
- 植田まさし「コボちゃん」連載開始
- IBM産業スパイ事件
- ザテレビジョン創刊
- 京都セラミックが社名変更、京セラに
- ソニーが世界初のCDプレーヤー「CDP-101」発売
- 笑っていいとも!、放送開始
- 中央自動車道全線開通
- 上越新幹線開業
- 映画「E.T.」世界中で大流行
- 公衆電話の設置、テレホンカードの販売開始
- 穂積隆信「積木くずし」が社会現象に
- アイドル黄金時代到来
- 近藤真彦:ハイティーン・ブギ
- 松田聖子:赤いスイートピー
- 中森明菜:少女A
- 薬師丸ひろ子:セーラー服と機関銃
- 松本伊予:センチメンタル・ジャーニー
- シブがき隊:NAI・NAI 16
- 嶋大輔:男の勲章
- 中島みゆき:悪女
- シュガー:ウエディングベル
- 上田正樹:悲しい色やね
- わらべ:めだかの兄弟
- 1982年の音楽
- 3年B組 貫八先生
- 熱血あばれはっちゃく
- 宇宙刑事ギャバン
- 1982年のテレビアニメ
テレビが最大の娯楽、というのがよくわかる。
各テレビ局は「誰をターゲットにしているのか」、それが明確にわかる番組作りをしている。
アイドルはグループから個人になり、単体アイドルが大勢誕生した。
音楽番組、ドラマ、アニメ、特撮ヒーロー、スポーツなど、ほぼテレビが主役だ。
テレビは「一家に一台」という時代に移行。
- 父の野球観戦 VS 子供のバラエティー番組
- 兄・姉が見たいアニメ VS 弟・妹が見たい別チャンネルのアニメ
毎日のように「チャンネル争い」という激闘が繰り広げられていた。
チャンネルというのは、ツマミをガチャガチャと回して変えていた、ブラウン管。
2019年の出来事
設定の2019年から3年が経過した2022年現在。
2019年を経験した私が、この映画を観てどう思うのか、とても興味深い。
- 天皇陛下の即位、年号が「令和」になる
- 消費税10%、軽減税率の導入
- 台風・豪雨で甚大被害
- 京都アニメーション放火により36人が亡くなる
- ラグビーワールドカップ日本大会、史上初の8強入り
- 安倍首相、通算在職日数が歴代最長
- 池袋で高齢ドライバーが暴走事故
- 首里城火災
- ローマ教皇38年ぶりに来日
- 香港で大規模ストライキ
- ノートルダム大聖堂火災
- 東京テレメッセージがポケベル事業から撤退(51年間続いたポケベルのサービスは完全終了)
- イチロー 引退
- 吉田沙保里 引退
- 探査機はやぶさ2、小惑星リュウグウに着地成功
- バスケ:八村塁、NBAドラフトで日本人初の1巡目指名
- 蒼井優・山里亮太 結婚
- 千葉・野田で小4女児虐待死
- 国立天文台などの国際チーム、世界初のブラックホール撮影成功
- タピオカ 大流行
- 闇営業 大流行
- 鬼滅の刃 大流行そして社会現象に
- アベンジャーズ/エンドゲーム 興行収入歴代2位
- 米津玄師:Lemon
- あいみょん:マリーゴールド
- パプリカ:Foorin
- Official髭男dism:Pretender
- King Gnu:白日
- LiSA:紅蓮華
- DA PUMP:USA
- 2019年の音楽
- 2019年のアニメ
いつの時代も、嬉しい出来事と悲しい出来事が入り混じっている。
この頃はまだ「みんなが同じもの」を見て、それを楽しんで、それを良いねと言い合って、同じ話題で会話ができていた。
いまは、みんながそれぞれ好きなものを見て、個人で楽しんで、個人で良いねと思って、人と被らない話題なので「あれ見た?」や「あれ楽しいよね」という会話ができなくなっている。
いわば「個人の時代」になった。
撮影方法
このSF映画の登場によって、様々な撮影法が編み出されたらしい。
今では当たり前に使われているので見落としてしまうが、そこに注目して鑑賞すると「このシーンかな?」と思うところがあった。
まず、前半。
1体のレプリカントが逃走するシーン。
デパートらしき建物の1階部分のショーウィンドウを破壊しながら逃げるレプリカント。
それを後から追う特任捜査官:デッカード(ハリソン・フォード)。
特殊な銃でレプリカントを攻撃。
ガラスを破壊しながら倒れ込むレプリカント。
ここ、スローモーションで倒れ込む、2回。
ちょっと早めのスローモーション。
記憶を思い返すと、今まで観た古い映画(午前十時の映画祭)でスローモーションがあっただろうか。
いや、あった(笑)
たしか、ジャック・ニコルソン主演『シャイニング』であったね(汗)
浴室で全裸の女性とキスするシーンが、たしかスローモーションだわ・・・。
うーん、新しい撮影法が何なのかわからない・・・。
あとは、照明の使い方。
建物越しに入る光のすじ。
ブラインド越しの光の入り方。
背後に照明を当てて影を映し出す。
光と影の演出。
光の使い方が多様。
思い描く未来像
2019年という未来を思い描いた映画。
昔の人が考えていた未来は、こういうものだったのか、としみじみ。
いつの時代も「未来」は車が飛ぶ。
音の演出
音楽がすごく良かった。
重低音が体に響く。
これも時代なのだろう、シンセサイザーが聞こえる。
あと、凄いなーと感心したのが、街中の音。
ザワザワとした街の雑踏。
行き交う車の音。
そこかしこで聞こえる会話。
その中に『分かる人に分かる言語』を入れているのが面白かった。
基本的に英語で作られているが、ときどき聞こえる日本語に意識が引っ張られる。
(ん?いま日本語が聞こえたよね?なんて言ってた?)
一瞬、時間が止まる、思考が止まる。
このやり方、本当に凄いと思った。
広告
映画の作品内に広告を入れる、というやり方は斬新だ。
しかも、なぜ【強力わかもと】をチョイスしたのか(笑)
バドワイザー、コカ・コーラ、超有名企業名の中に、強力わかもと。
むむ、チョイスがとても好みだ。
ネオンが煌びやかに彩る街中に、いくつかの日本語が見られる。
ゴルフ、万年筆など。
あとは、アジア風な街の設定なのか、中国語と日本語が出てくる。
デッカード(ハリソン・フォード)が屋台で食べるのは、うどん。
欧米人が考える「雑多な下町」とはこういう感じなのか、なるほど、不思議な感じだ。
なのに、デッカードの部屋はエジプト風。
情報が入り乱れていて面白い。
地上と地下
この映画を観ていて思ったのは、裕福な人は上(高層)にいて、貧民は下(地面もしくは地下)にいる。
「裕福な人々は新天地を求めて宇宙へ移住し、残されたのは下層階級の市民のみ、ロサンゼルス全体がスラムと化している。」
なるほど、映画の設定で、貧富の差を表現するのに使われているのか。
と思いきや、実際に現実でもそうだ。
金持ちは高層に住み、一般人は地上に住む。
韓国映画『パラサイト』では、貧民は地下に住む。
人の縮図なのだろうか。
天使は天上へ行き、天国は雲の上にある。
悪魔や鬼は地下深くへ、「地獄に落ちる」は文字通り地下だ。
特殊メイク
遺伝子研究者のセバスチャン。
ホルモンの影響で実年齢より老けている。
早老症というらしい。
これ、特殊メイクなのかな?
それとも俳優さんの特徴なのかな?
特殊メイクだとしたら、すごいよ!
1980年代に特殊メイクのシリコンがあったのかな?
特殊メイク経験者(趣味程度)からすると、ちょっとテンション上がった。
疑問1
環境汚染のため昼間でも厚い雲に覆われ、酸性雨が激しく降り注ぐ。
ずっと暗い夜なのは、環境汚染の賜物。
だから、照明の使い方が多様。
ここで1つの疑問が。
普通の人間が酸性雨にあたっても平気なのか?
環境汚染によって人類が短期間で進化して耐性ができたのか?
しかも、建物も車も、なんか平気そう。
劣化が早まってボロボロになったり、外壁の塗装が溶けたりしないのかな?
てか、皮膚は炎症おこしたり溶けたりしないの?
目に入ったらヤバくね?
なんてゲスなことを考えてしまった。
高い建物の屋上、ぶら下がるデッカード。
酸性雨で滑らないのかなぁ……。
疑問2
限りなく人間に近いレプリカントを作る必要性があるのだろうか?
見分けがつかないくらい精巧にする必要性は?
そもそもの目的が、過酷な環境下(地球外など)での労働のために開発されたらしいが、人間を模する意味はあるのだろうか?
何かで区別できるようにしないと、人間と間違えるんじゃない?
地球外にいるレプリカントが人間に成り代わって脱出、なんてことも有り得るのに考え付かなかったのだろうか?
レプリカントが感情を持つことで、人間と同じことをし始める。
つまり、人間が思い付くことをレプリカントもする。
では、過酷な環境下での奴隷労働を強いられた場合、人間ならどのような思考と行動をするのか。
予想つくと思うけどなー……、なんてね。
機械に感情を持たせたい、という未知のことをやりたいのは「研究者のサガ」なのだろう。
もしくは、製造から数年経つと感情を持つというのは「予期せぬ副産物」で排除不可なのだろうか。
でも、レプリカントに赤い血液(のようなもの)は必要なのかな?
あれは血液と同じ仕組みで流れている燃料なのかな?
疑問3
レプリカントと分かっていながら、女性レプリカントを「人間の女性」として愛し始めるデッカード。
ここでまたゲスなことを考え始める。
体の作り(下半身)も同じように作ったのかな?
奴隷労働が目的なら、そこら辺は不要だけど……。
あ、作中に慰安用レプリカントが登場していた。
労働レプリカントとして製造するものには排除してるのかな?
逆に身近に置くレプリカントには精巧に作るのかな?
疑問4
最後の戦闘シーン。
建物の屋上、ぶら下がるデッカード(ハリソン・フォード)。
もう、ダメだ、落ちる!
というとき、戦っていた男性レプリカントがデッカードを引き上げて助ける。
そこで男性レプリカントは語り始める。
自分が見てきたもの、感じてきたこと。
レプリカントだけが持つ記憶と感情、人間が見ることの無い環境、人間が感じること無い苦悩。
自分の死期を悟り、語り、終わりを迎える。
デッカードと戦ったレプリカントは、何がしたかったんだろうか?
自分という存在を、デッカードの記憶に刻みたかったのだろうか?
それとも純粋に全力で死に抗いたかったのだろうか?
「死」には3種類あると聞いたことがある。
文化的な死 | 国や地域、民族の文化が継承されない、文献などが残っていないなど |
肉体的な死 | 死亡することで肉体が消滅する |
記憶的な死 | その人が存在していたという記憶が無くなる、忘却 |
人間を模したことによって、人間と同じく死を恐れたのだろうか?
最後に
レプリカントに設定された「4年」という寿命。
「生き永らえたいから寿命を伸ばせ」と開発者を脅した。
しかし、寿命を伸ばすことはできなかった。
捜査官に殺されたくない、少しでも生き永らえたい、デッカードと戦闘を繰り返しながらそれを楽しむかのようなレプリカント。
過酷な労働に耐えられるように強靭な肉体を持つレプリカントなら、ちょっと本気だせば簡単に人を殺せるだろうに。
捜査官を殺すことが「目的」ではないのだろう。
それもまた、人間が持つ「矛盾と葛藤」と似たものなのか、はたまた自分という存在を忘れてほしくなかったのか。
それとも、人間になりたかったのだろうか。
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