「光」の無い世界がある、ということは知っている。
「色」の無い世界がある、ということは知っている。
「におい」の無い世界がある、ということは知っている。
「音」の無い世界がある、ということは知っている。
私に備わっていることが無い世界がある、ということは知っている。
ただ、それがどういう世界なのか、私は知らなかった、この映画を観るまでは。
あらすじ
豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす女子高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で1人だけ耳が聴こえる。
陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から「通訳」となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っている。
CODAとは
CODAとは「 Children of Deaf Adults 」の頭文字をとった言葉。
意味は『聞こえない(聞こえにくい)親を持つ子供』である。
英語・日本語などと同じように、ひとつの言語として『手話』がある。
手話英語、手話日本語があり、私たちが日常的に使う言語とは少し違う。
アカデミー賞
主な登場人物は、父、母、息子(兄)、娘(妹17歳)。
父役・母役・息子役の俳優は、実際に耳が聞こえない。
だからこそ作品が温度を持つ。
この映画はアカデミー賞の作品賞を受賞した。
作品賞とは、アカデミー賞の部門の1つで、映画作品自体へと賞が贈られるアカデミー賞の最重要部門、その年の最高の作品である。
アメリカで上映された最も優れた映画5本を候補に選び、その中の1本にこの名誉が与えられる。
基本的にどの賞も拍手喝采になるが、コーダが作品賞を受賞した時は少し違う。
拍手が「手話の拍手」によって喝采を博した。
とても美しい光景だと思った。
「手話の拍手」は映画の中にも出てくる、どのような拍手なのかは観て確かめてほしい。
※ウィル・スミスのビンタ事件が大きく取り上げられてしまい、この映画の話題性が薄れてしまったのが残念でならない…。
映画館で観られる日本
この映画を映画館で観られる数少ない国、それが日本。
実は、この映画はAppleTV制作の配信映画。
海外では配信作品なのだ。
歴史上、配信映画が作品賞を受賞したという快挙。
アカデミー賞作品賞受賞によって上映回数が増えた。
私が観たときは、朝イチの上映にもかかわらず観客がとても多く、座席の8割が埋まっていた。
音と日本語
音を感じさせる言葉を並べてみる。
- 耳を澄ませる
- 耳を傾ける
- 声を殺す
- 息を潜める
- 嵐の前の静けさ
- せせらぎ
- ざわめき
- もがり笛
- 抜き足 差し足 忍び足
- アスファルトがタイヤを切りつけながら暗闇を走り抜ける音
- ざわ…ざわざわ…ざわ…
聞こえる人にとって上記の言葉たちは、どのような状況の音なのか想像できる。
言葉の中にも、聞こえると想像できるもの、聞こえないと分からないものがあるのだと気付く。
言葉とは
前半は(大人の)下ネタが大胆にあって、笑えるシーンが多め。
これがあるおかげで、身構えることなくスッと映画の世界に入っていける。
気付いたのは、BGMが極めて少ないこと。
生活上にある音をそのまま使用している。
自分がいる世界にはこんなにも「たくさんの【音】」で溢れているのだと改めて知る。
そして、その世界には『聞こえる人』と『聞こえない人』が共存している。
映画の中では音としての声は無いけれど、強くて感情的な「言葉」が飛び交いながら爆発する。
感情の赴くまま発する言葉は、熱を帯びる。
それはとてつもなく、熱い。
「歌うとどんな気分になる?」
うまく表現できない娘は、表現の仕方を変える。
ここで『説明』は無いが、彼女の表情と動きでなんとなく分かる気がする、不思議だ。
音とは
印象的な前半のシーン。
家族で話し合っている時のこと。
- 妹「私は歌が好きなの、生き甲斐なの!」
- 母「知ってた?(手話で) 」(父・兄を見ながら)
この母親のセリフ、ものすごく重く感じた。
聞こえないから歌(音)というものが理解できない。
これが聞こえる人と聞こえない人の生活に「差」を生み出してしまう。
彼らにとって音は、体感する振動という認識。
この【振動】は、後に「意味のある行動」へと繋がる。
この映画を観て「音の配慮の無さ」というのは初めて気付いた。
想いの違い
「いま」を維持して家族を守ろうとする父親。
「自分が知ることの出来ない世界」に飛び込もうとする娘を心から心配する母親。
いまを「変える」ことで妹の人生を後押しすると考え、そのゆえ『乱暴な言葉』と『冷たい態度』で突き放し『不器用で熱い優しさ』をぶっきらぼうに与える兄。
「通訳」という存在である自分に葛藤しつつも家族を愛してやまないという板挟み状態の妹。
それぞれ【愛のカタチ】は違うけど、熱さは同じ。
兄の暑苦しい愛に、号泣した。
体験する
後半の、とあるシーンの演出、近年稀にみる「思い切った演出」が本当に素晴らしかった。
「耳が痛い」とはまさにこの事。
これは映画館でしか【体験】できない。
その後の父と娘のシーンも素晴らしかった。
「俺のために歌ってくれないか?」
父親に娘の歌が『初めて』届いた。
イヤホン必須
この映画を観るときは「イヤホン」の使用を強くオススメする。
できれば遮音性の高いイヤホン、ノイズキャンセル機能のあるイヤホン。
なるべく外部音を入れずに鑑賞してほしい、作品の中のあらゆる音をより身近に感じることができるから。
この映画は【体験】する映画だ。
最後に
ラストシーン、車の窓から身を乗り出す妹のハンドサイン。
あれは世界共通の「 I Love You 」ではない。
よく見ると少し違う。
この意味は【 I really love you 】
久々に大号泣する映画だった。
スクリーンが明るくなっても、涙が止まらず立ち上がれなかった。
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