<午前十時の映画祭>
「一度、スクリーンで観たかった。もう一度、スクリーンで観たかった。」
4月1日~3月30日を1年として、2週間代わりで素晴らしい名作映画を公開しているこの企画。
作品によっては「1週間限定公開」もあるので御注意を。
午前10時とあるが、作品によっては10時より前に上映することもあるので、上映映画館のスケジュール確認は必須。
公式HPでは
- 上映開始時間は<午前10時に限定せず>それぞれの劇場の判断で<午前中の上映開始>となります。
- そのため、上映開始時間は劇場ごとに、また作品によっても異なります。
- また、鑑賞料金も各劇場が設定した料金となりますのでご了承ください。
- ご鑑賞前に各劇場の公式サイトなどでご確認をお願いいたします。
私の住む街:栃木県では「ユナイテッド・シネマ アシコタウンあしかが」と「TOHOシネマズ宇都宮」の2ヶ所で上映している。
あらすじ
ベトナム戦争真っ只中の1960年代。
オクラホマの田園地帯の朝。
1人の若者が、老いた父親の見送りを受け、ニューヨーク行きのバスに乗った。
若者の名はクロード(ジョン・サヴェージ)。
徴用兵としてベトナムに送られる前の2日間を利用し、ニューヨーク観光をする。
セントラル・パークに着いたクロードは、バーガー(トリート・ウィリアムズ)をリーダーとするヒッピーたちと知り合う。
ヒッピーたちの自由奔放なパフォーマンスを見せつけられ、圧倒されるクロード。
2日後の徴兵までの時間をバーガーたちと過ごす事になり、友情を深めていく。
ミュージカル「Hair」
1967年、オフ・ブロードウェイで初演。
翌1968年にブロードウェイで初演。
ブロードウェイに「ロック」を持ち込んだ最初のミュージカルであることからロック・ミュージカルの元祖と呼ばれており、「 The American Tribal Love-Rock Musical 」という副題がつけられている。
映画「Hair」はブロードウェイミュージカルを原作に作られた。
オフ・ブロードウェイとは
ニューヨーク州マンハッタンにある比較的小さい劇場のこと。
オフ・ブロードウェイで大ヒットすると、オン・ブロードウェイに進出することもある。
オン・ブロードウェイはミュージカルが多く、オフ・ブロードウェイはストレートプレイ、パフォーマンス、1人芝居、ダンスなど様々なジャンルの作品が上演されている。
ミュージカルの場合、オフで評判が良ければ、オンに進出することも多い。
オフ・ブロードウェイではロングラン上映がいくつかある。
1960年から始まった「 The Fantasticks (ファンタスティックス) 」は2002年まで上演。
オフ・ブロードウェイの劇場史上最長の42年間ロングラン公演、公演数は17,162回。
オン・ブロードウェイの最長記録「オペラ座の怪人」を遥かに上回っている。
2006年からオフ・ブロードウェイ再演を開始した。
The Fantasticks (ファンタスティックス)の他には、1991年に「ブルーマン(Blue Man)」、1994年にストンプ(STOMP)がある。
オン・ブロードウェイ | 座席数500席以上の劇場 |
オフ・ブロードウェイ | 座席数500席未満の劇場 |
オフ・オフ・ブロードウェイ | 座席数100席未満の劇場 |
1968年
1968年にブロードウェイで初演、日本では昭和43年、2023年から55年前。
当時なのがあったのか書き出してみる。
- 大塚食品工業が世界初の一般向け市販レトルトパウチ食品「ボンカレー」を発売
- 日本で「国際勝共連合」発足、会長に統一教会の初代会長・久保木修己、名誉会長に笹川良一
- 東京都千代田区に日本初の超高層ビルである霞が関ビルディング(高さ147メートル)が完成
- イタイイタイ病を公害病に認定
- ロバート・ケネディ暗殺事件
- 日本で郵便番号制度実施
- 集英社から「少年ジャンプ」が創刊(ただし当初は月2回刊)
- 明治製菓が日本初のスナック菓子「カール」を発売
- フランスがサハラ砂漠にて水爆実験
- タカラが日本版の「人生ゲーム」を発売
- アメリカの有人宇宙船「アポロ7号」が打ち上げ
- カネミ油症事件
- 川端康成が日本人初のノーベル文学賞受賞
- アメリカ合衆国大統領選挙で共和党候補のリチャード・ニクソンが当選
- ビッグコミック(小学館)にて、さいとう・たかをの長編劇画「ゴルゴ13」連載開始
- 東京都府中市で三億円強奪事件が発生
- アポロ8号が月を周回し、月の地平線から昇る地球の写真が撮られる
少年ジャンプとカールが同い年とは…。
ベトナム戦争
ベトナム戦争とは、南北ベトナムの統治をめぐる戦争のこと、20年以上続いた。
位置 | 主義 | 国名 | 指導者 | 交戦勢力 |
北ベトナム | 社会主義 | ベトナム民主共和国 | 革命家:ホー・チ・ミン | ソビエト連邦、北朝鮮、中国など |
南ベトナム | 資本主義 | ベトナム共和国 | 初代大統領:ゴ・ディン・ジエム | アメリカ、韓国、オーストラリアなど |
こちらの記事に詳しく記載されている。
テレビの報道番組で、落合陽一さんが「父の言葉でこういうのがあります」と話していた。
【戦争はいつだって老人が始め、若者が犠牲になる】
「戦争は老人が始めて若者が犠牲になる」この構図はいつの時代でも変わらないし、いつまでも変わらない。
この映画のキーワード(町山智浩 談)
上映前と上映後に映画評論家:町山智浩さんの映像解説があった。
これがまたとても勉強になった。
町山さんの解説によると、カウンターカルチャーを知るにあたっていくつかキーワードがある。
- スピリチュアル
- ドラッグ
- SEX
- 人種
- ロックンロール
- LOVE & PEASE
覚えている範囲で、少し書いてみる。
スピリチュアル
スピリチュアル、魂という意味。
アメリカ、1950年代までは日曜日に教会へ行き、神(キリスト)に祈るクリスチャンばかりだった。
1960年代になると、それに疑問を持つ人が出てくる。
「クリスチャンというのは私たちが目指す道なのか、それ以外にもいろんなものがあるのではないか」と考える人が出始めた。
その結果、若者たちはいろんな宗教に拡散していった。
その中に占星術も含まれており、占いブームが起こる。
キリスト教において「占い」は禁じられていた、理由は「迷信」だから。
しかし占星術はキリスト教よりも前からある、メソポタミア文明あたりから。
このカウンターカルチャーによって占星術が復活する。
この映画において有名な曲「Aquarius(アクエリアス)」では『これからは水瓶座の時代になる』と歌っている。
水瓶座の時代とは「文化の時代」、「愛と平和、歌と踊りの時代が来る」と歌っている。
ドラッグ
マリファナ、LSDなど、精神を拡張するために使用されていた。
トランス体験、サイケデリック体験など。
意識革命として真剣に提唱されていた。
SEX
作中に「sodomy」という曲がある。
いまでいう性的放送禁止用語、性的な表現がありありと歌われている。
キリスト教社会においてSEXはタブー(罪)とされている。
キリスト教社会のタブー | 同性愛、自由な性行為、離婚、中絶の禁止、厳しいものは自慰・避妊も禁止、多神教への不寛容と軽蔑、人間中心主義 |
SEXは人間の繁栄として必要なことであり、それを開放していこうという運動、性の解放、性革命。
これは大きな社会問題になった。
タブーの解放には大きな反動が生まれる。
反動の詳細は、次の「人種」にて。
人種
この映画はロックミュージカルの先駆け。
黒人音楽(ブラックミュージック)の要素が大きい、R&Bなど。
インターレイシャル(interracial):異人種間の恋愛やSEXが歌われている。
1965年あたりまで、アメリカ南部では異人種間の結婚が禁じられていた、犯罪だった。
1967年から異人種間(黒人と白人)の結婚が認められた。
しかし、一部の白人主義者から「人種が混ざってしまう」と猛反発を受ける。
作中で性の解放が取り上げられているので、白人主義者からの反感が激しかった、そういう時代だった。
各地でこの映画が上映されると、そのたびに脅迫や放火、爆弾事件まで起こった。
ロックンロール
これらすべての革命の基盤になっているのが「ロックンロール」。
1955年あたりからエルヴィス・プレスリーやチャック・ベリーを初めとして、徐々に大衆に浸透していく。
これまでの音楽とは全く異なる「世の中に対する不満や怒り」をハッキリとテーマにして歌っている、それがロックンロール。
今までは「神様がすべて」という歌ばかりだったが、このロックンロールはそれらを破壊するだけのパワーがあった。
1962年あたりからザ・ビートルズが世界的に人気になり、音楽にカウンターカルチャーを取り入れていった結果、爆発的に大衆に広まった。
ロックンロールとカウンターカルチャーは相互作用があり、世界中の人たちに受け入れられていった。
ロックンロールはカウンターカルチャーの入口であり、カウンターカルチャーをリードする存在だった。
LOVE & PEASE
ベトナム戦争の反対運動として「LOVE&PEASE」。
フラワーチルドレン、フラワームーブメントと呼ばれている。
「武器ではなく花を持て」というスローガンのもと、愛と平和の象徴である花で着飾った平和運動の一種のこと。
花というのは反戦の象徴。
映画の中でも花・花をモチーフにした装飾をつけている人が多い。
ベトナム反戦運動の一環として、学生たちが花を持って兵士の銃口に花を挿すというパフォーマンスが行われた。
カウンターカルチャー
カウンターカルチャーとは、前からある主流の文化(ハイカルチャー)に対抗する文化のこと。
ハイカルチャーは、貴族や富裕層階級のものであり、知識・教養を持つ少数の者が享受する文化であった。
大衆主義、商業主義、権威主義、伝統や古い大人の価値観に対抗することが多い。
カウンター | counter | 反撃、反抗、対抗 |
カルチャー | culture | 文化 |
ハリウッド革命
町山智浩さんの解説で「ハリウッド革命」という言葉があった。
1968年にハリウッド革命が起こり、ヘイズコードが撤廃された。
禁止事項 | 冒涜的な言葉、好色もしくは挑発的なヌード、薬物の違法取引、性的倒錯、白人奴隷を扱った取引、異人種間混交(特に白人と黒人)、性衛生学および性病ネタ、出産シーン、子どもの性器露出シーン、聖職者を笑いものにすること、人種・国家・宗教に対する悪意を持った攻撃 |
要注意事項 | 旗、国際関係(他国の宗教・歴史・習慣・著名人・一般人を悪く描かぬように気を付けること)、放火行為、火器の使用、窃盗・強盗・金庫破り・鉱山や列車および建造物の爆破など、残酷なシーンなど観客に恐怖を与える場面、殺人の手口の描写、密輸の手口の描写、警察による拷問の手法、絞首刑・電気椅子による処刑シーン、犯罪者への同情、公人・公共物に対する姿勢、教唆、動物及び児童虐待、動物や人間に対して焼きゴテを押し付ける、女性を商品として扱うこと、強姦(未遂も)、初夜、男女が同じベッドに入ること、少女による意図的な誘惑、結婚の習慣、手術シーン、薬物の使用、法の執行もしくはそれに携わる者を扱うこと(タイトルのみも含む)、過激もしくは好色なキス(特に一方が犯罪者である場合は要注意) |
ヘイズコードの撤廃により、SEXや暴力、政治的なことを作品にしても良いとなった。
「卒業」や「俺たちに明日はない」のころ。
映画の作風がガラリと変わる革新的な出来事だった。
演習場で演説している老人の正体
演習場で演説している老人:ニコラス・レイ。
1955年公開の映画「理由なき反抗」の監督。
ロックンロール革命の最初に作られた作品。
長めのオールバックな髪型、赤いジャンパー、若者が乗る車から流れる音楽:ロックンロール。
若者革命は反抗が礎になっている。
ここからカウンターカルチャーが始まっている。
カウンターカルチャーは1969年に終わる。
チャールズマンソン事件などを経てヒッピー文化が終わっていく。
チャールズ・マンソン | ヒッピーのコミューンの指導者であり犯罪者 | カリフォルニア州にて「ファミリー(マンソン・ファミリー)」の名で知られるコミューンを率いて集団生活をしていた | 映画監督ロマン・ポランスキーの妻:シャロン・テート(妊娠8か月)を含む7人の殺害を共謀 |
ホワイトハウスに集まる若者たち
最後のシーン。
ホワイトハウスにベトナム反戦を訴える若者たちが押し寄せる。
1969年にワシントンで大きな反戦集会を行う、フォレストガンプに出てくるもの。
反戦集会、実際は何の結果ももたらさなかった。
1972年の大統領選挙、ニクソンは圧倒的な多数で再選する。
ベトナム戦争で多くの若者が死んでいるにも関わらず、アメリカの国民はベトナム戦争の継続を選んだ。
最後のシーンは戦争終結にはつながらなかったという非常に虚しいシーンとなっている。
音楽
さまざまなシーンで音楽が使われている。
代表的な曲は「Aquarius(アクエリアス)」。
セントラルパークに集まる個性的な若者たちがパフォーマンスをするシーンに使われている。
印象に残るシーン
当時は規制がなかったのだろうか、それとも作品の方向性やテーマによるものなのだろうか。
ちゃんと人体が映し出されている。
見えないように工夫するとか、そういうのはカメラワークやカメラ位置でどうにかなる。
シルエットとか、そういうものを隠していない。
公園の池で泳ぐバーガーたち。
白い下着が濡れて裸体が透けている、それを隠していない。
もうひとつ、徴兵検査のシーン。
ズラリと並ぶ上官たちの前で全裸になる若い男性、ローアングルからのバックショットで裸体を隠しているも、シルエットでナニがあるのかわかる。
ロックミュージシャンの長髪
私の中の長年の疑問「ロックミュージシャンはなぜ長髪なのか?」。
これがこの映画によって解消された。
60~80年代のロックミュージシャンは長髪がとても多い。
セミロング or ロングヘアばかり、なぜ同じような髪型をしているのか。
「腐った世の中をぶっ壊す」みたいな激しいことを歌っているのになぜこぞって同じ格好をするのか、ずっと不思議だった。
長髪が誕生する前は、短髪が正しい髪型でありオーソドックス(正統派)だった。
それらの「正しいこと」の反発行為として、長髪なのだ。
長髪にすることで反抗の意志になるのだ。
髪が持つ影響力
髪が持つ影響力、想像以上に大きいのだと知った。
髪はその人の分身であり、その人の意志であり、その人のアイデンティティなのだ。
アイデンティティ | 自分は自分であると自覚すること、自己同一性 |
そして、髪は人を服従させるのに最適なアイテムでもある。
服従させるためのアイテムとして最適、とはどういうことなのだろうか。
髪と支配
髪型が決められている「場所」がある。
職業でいうと、警察官や公務員など。
力士(相撲取り)は引退時に髷を切り落とすし、そもそも髷が結えないと力士になれない。
軍に入隊するときには丸坊主になるし、自衛隊に入隊するときも丸坊主だ。
この映画でも、入隊時には丸坊主にされている。
罪を犯して刑務所に入る時も、男性は丸坊主にされる。
スポーツの専門学校や養成所に入る時も、男性は丸坊主になることが多い。
野球部は丸坊主だし、高校野球は丸坊主が基本だ。
そういえば、中学・高校で「悪いことをしたら罰として丸坊主」というのがあった。
強制的に髪を切る、もしくは決められた髪型を強要するこれらの行為は、相手の存在意義やアイデンティティを無くす行為であり支配の意味なのだ。
髪型の制限、これは個を必要としていないことの表れであり、個の抑圧と支配を意味し、指示や命令に従い実行するロボットであることを求めている表れだ。
逆に、自由な髪型の職業や会社は、個を必要としている。
奇抜な髪型やファッションは、個の表現であり、個の叫び、自己主張。
髪は、人が人であるための必要不可欠なアイテムなのだ。
そういえば「女性が失恋して髪を切る」というのも未練を断ち切るという強い意思の表れだ。
意思 | 気持ち、思念 |
意志 | 意欲、志(こころざし) |
最後に
この映画を観られたこと、心から感謝している。
とても勉強になったし、得るものが多かった。
以前、興味・関心・好奇心から鑑賞した「理由なき反抗」「エデンの東」(午前十時の映画祭)。
2022年7月公開の「エルヴィス」。
ジェームズ・ディーン、エルヴィス・プレスリー、ザ・ビートルズ、ローリング・ストーンズなどなど、当時は前衛的で先進的で特徴的な髪型のスーパースターたち。
彼らの髪型には強い意志が込められている。
そして、私は髪に携わることを仕事にしている。
これも何かの縁であり、運命であり、使命なのかもしれない。
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