映画「ネットワーク」を観た感想<午前十時の映画祭>

映画鑑賞の感想文

午前十時の映画祭【ネットワーク】

鑑賞前は「こんな昔の映画をスクリーンで観られる滅多にないチャンス」と軽く考えていた。

鑑賞後は「世の中を知る教本になる貴重な作品」として大変勉強になった。

あらすじ

UBSテレビ局の報道番組で長年ニュースキャスターを務めてきたハワード・ビール(ピーター・フィンチ)。

最盛期に28%の視聴率を誇ったイブニング・ニュースも、今や12%という低落。

1%の伸びが年200万ドルの増収となるTV界にあって、これは致命的な敗退を意味する。

ましてそれがネットワークの顔:報道番組となればなおさらだ。

視聴率低下によって二週間後の解任が決定しうつ状態に陥ったハワード・ビールは、その夜の生放送で翌週の公開自殺を予告する。

放送後、テレビ局に大量の苦情が届き、ハワードは即座に解雇を宣告される。

しかし彼の長年の友人であるニュース部門の責任者マックス・シューマッカーは、解雇の前にもう一日だけハワード・ビールに番組を任せてみることにする。

キャスト

左から役名、俳優名。

ダイアナ・クリステンセン フェイ・ダナウェイ
マックス・シューマッカー ウィリアム・ホールデン
ハワード・ビール ピーター・フィンチ
フランク・ハケット ロバート・デュヴァル
ネルソン・チェイニー ウェズリー・アディ
アーサー・ジェンセン ネッド・ビーティ

1976年

1976年は昭和51年、いまから48年前。

主な出来事をピックアップ。

町山智浩さんの解説:上映前

覚えている範囲で。

サタイア(風刺)

1976年公開の映画、架空の系列局が舞台。

視聴率に踊らされるテレビ業界人の狂騒を痛烈に皮肉った作品

サタイア(風刺)というジャンル。

風刺を英語で「 satire 」。

テレビ業界の裏側を知る2人

アカデミー賞を3タイトル受賞、オリジナル脚本賞:パディ・チャイフスキー。

チャイフスキーは昔、テレビの脚本を書いていた経験からこの作品が誕生した。

監督:シドニー・ルメット、1960年代のはじめに、まだ録画が無かった頃のテレビで生ドラマを演出していた。

パディ・チャイフスキーとシドニー・ルメット、テレビ業界に詳しい2人によって作られた映画。

実話:クリスティーン・チュバック

1つの実話を基に作られている。

1974年、フロリダ州のローカル局のニュースキャスター:クリスティーン・チュバック、女性。

彼女は生放送中に「これから自殺の生放送をお送りします」と自身の頭を撃ち抜いた、享年29歳。

ジョーカーとの共通点

2019年公開の「ジョーカー」。

ホアキン・フェニックス主演。

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ジョーカーという作品は「ネットワーク」をもとに製作されている。

1970年代中盤のアメリカが物語の舞台設定。

ゴッサムシティという架空の都市だが、要はニューヨーク。

ゴミだらけ・犯罪だらけのニューヨークを再現している。

富める者は富、病める者は病み、貧しいものは貧しく。

荒廃の原因:石油と大統領と戦争

ニューヨークはなぜこのような街になったのか。

それは石油ショックが大きい要因。

石油産出国の中東は、イギリスとアメリカに搾取されていた。

1960年、中東はOPEC(石油輸出国機構)を設立する。

OPEC 国際石油資本などから石油産出国の利益を守ることを目的に設立された組織 イラクの提案でイラン、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5か国によって結成された

石油価格の高騰により、アメリカは不況に陥る。

経済的に不況になるだけではない。

石油ショックの少し前、ニクソン大統領の「敵陣営の選挙事務所の盗聴」が発覚し辞任。

大統領や政府に対する国民の信頼が崩壊。

追い打ちをかけるように、ベトナム戦争の敗北

小さな農業国:ベトナムに、世界一の軍事大国が負けるという事態は、アメリカ人の心を打ち砕いた。

そんなことが続き、1970年代のアメリカは鬱々とした世界に落ちていった。

アメリカ映画の名セリフベスト100

映画の中では、テレビからはキャスターが視聴者に対して「声を上げて怒れ!」と叫び、一躍有名になる。

俺はとんでもなく怒っている。もうこれ以上耐えられない!

原文:I’m as mad as hell, and I’m not going to take this anymore !

このセリフは、アメリカでは非常に有名。

AFIが選出する「アメリカ映画の名セリフベスト100」において19位にランクインしている。

CBSテレビ

映画ではUBSテレビ局だが、これはもう言うまでもCBS

アメリカの3大ネットワークの1つ( ABC、NBC、CBS )。

1960年代終わりから1970年にかけて「ガルフ&ウェスタン」という石油資本の傘下に買収されている。

コングロマリット

映画の中では、ACCというコングロマリットがUBSの親会社という形で反映させている。

コングロマリット 分野の異なるさまざまな業種や事業展開を行う企業や企業グループのこと 複合企業やグループ会社とも言う

異業種で形成されるグループのなかで特に規模が大きいものをコングロマリットという。

石油資本が巨大化していくのは、OPEC加盟の産油国が力を持っていくことで、それもこの映画で反映されている。

ガルフ&ウェスタンもパラマウント映画を傘下にし、メディアや石油などの異業種のさまざまな会社が複合企業になって巨大化していく。

その姿は、この映画において重要なテーマになっている。

日本のコングロマリット例

  • ソニーグループ
  • 楽天グループ
  • ソフトバンクグループ
  • 日立グループ
  • 三菱グループ
  • 伊藤忠グループ

など。

感想

先日の「チャイナタウン」に出演していたフェイ・ダナウェイ。

とても端整な顔立ちで美しい。

けど、ときどき歪んで見えるのはなんでだろう。

顔の右と左が対称ではないというか…、右と左で別人というか…。

右側の顔が歪んで見えるときがある。

右と左で別の人?

なんだろう、この違和感は。。。

CBSの責任者フランク・ハケット役のロバート・デュヴァル。

どこかで見たことある。

すぐにピンときた。

「ゴットファザー」の養子:弁護士のマイケルだ。

芸術と歴史

やはり歴史を知るには芸術に触れるのは一番早い、理解しやすい。

作品内の時代設定がリアルに出ている。

都市名や地域名は多少変えているが、そういうものだったとリアルに描いている。

時代背景が生々しい。

大昔の「過去」のことだが、現代にも通じる部分が多くあり、見ていて不快になることもしばしば。

大きなモノ(政治や経済など)に振り回される、小さなモノ(国民)。

直接批判すると死に直結するので「芸術」を介してボカしにボカして世に発表することで、小さなモノたちが触れられるようにしている。

やはり、歴史と芸術が密接で直結しているから、現代作品だけで評価はできないと痛感した。

最近の映画はつまらない、とか。

あの映画の何がおもしろいの?、とか。

過去の作品のオマージュやリスペクトがあるから、それらを踏まえて鑑賞するからこそ造詣が深くなるだ。

それを知らずにアレコレいうのは、なんか違う気がする。

その人の個人的意見なのだから何を言おうと自由だが、ちょっと無知が顔を出している気がしてならない。

制作側の意図と、なぜそうしたのかという目的を知ったうえで鑑賞するからこそ、その表現が意味を持つのではないだろうか。

と、ここ最近になって映画を観始めた私が熱く語ってみた。

てへっ

目的と方向の違い

なんていうのかな。

みんな目的が違うんだよね。

見ているものは同じでも、そこに行くまでの過程と手段がみんな異なる。

生きる目的が違う。

野望のために手段を択ばないのか。

それとも、人間を見ているのか。

大きなものからしたら、小さなものはコマでしかない。

仮面ライダーでいうと、ショッカー戦闘員。

スターウォーズでいうと、ストームトルーパー。

定額使い放題の会社員も同じかもしれない。。。

組織を維持するために必要な人員だが、軽視される切なさ。

みんな仲良く手を取り合って生きる、というのは儚い夢なのだろう。

梅が香を桜の花に匂わせて柳の枝に咲かせたい、とはこのこと。

世界の縮図

大勢が関わる巨大なことは、この映画が描く世界なんだろうね。

国と国の関わりとか、経済や政治、スポーツや芸能、会社や地域など。

それらの大きさはさまざまだが、内容はこの映画と同じ。

まさに世界の縮図。

昔の作品は、どストレートに、かつ剛速球で来る。

だから、すごくメンタルに効く。

でも、知りたいから見てしまうのよね。

人間という生き物が知りたくて。

反面教師にして、少数派でもしっかり生きようと思う今日この頃。

キリスト教の教え:労働は罰

キリスト教において労働は「人間に与えられた罰」らしい。

地位や名誉、そして金があれば労働は罰ではなくなるのか?

意欲的に活動する俳優とか、ひっぱりだこのモデルとか、彼らにとって仕事は労働ではないのか?

なんで働くのだろう?

純粋な疑問。

上映後

上映後の解説、こちらも覚えている範囲で。

モニタールームとジョーカー

最後のシーン、ハプニングがあって、画面が暗くなって「しばらくお待ちください」のテロップが出て、カメラが引いていくとモニタールームが映し出される。

モニターが4つある、モニタールーム。

このラストのシーンのつなぎ方、実はホアキン・フェニックス主演の「ジョーカー」に使われている。

ジョーカーの監督:トッド・フィリップスは、この「ネットワーク」にオマージュを捧げている。

パトリシア・ハースト誘拐事件

テロリストがテロを中継するという前代未聞のシーン。

これも実話を基にしている。

1974年に発生した「パトリシア・ハースト誘拐事件」。

アメリカの新聞王:ウィリアム・ランドルフ・ハーストの孫娘。

ウィリアム・ランドルフ・ハーストは、映画「市民ケーン」のモデルになった人物。

1974年、当時19歳のバークレー大学2年生だったパトリシアは、武装した二人に誘拐される。

その後、テロリストに洗脳され、テロリストの一員になってしまう。

テロ組織として銀行強盗などの犯罪を繰り返す。

FBIがアジトを突き止め、襲撃する。

その様子がテレビ中継されていた。

激しい銃撃戦により火災が発生するなど凄惨な場となった。

その様子を生中継していた、テロの生放送、これは実話だったのだ。

パディ・チャイフスキーは、ドラマとして「テロの生放送をするテレビ局というシリーズもの」を描こうとしていて、紆余曲折ありこの映画になった。

ダイアナ・クリステンセンのモデル

フェイ・ダナウェイ扮するダイアナ・クリステンセンにもモデルがいる。

テレビプロデューサー:リン・ボーレン。

NBCの編成に居た人で、女性で初めて編成局長になった人物。

メロドラマやクイズなどのバラエティー番組の天才、驚異的な視聴率を上げた。

ニュースであるべきものを報道的な内容をバラエティー枠で放送してエンターテインメント化するという、現在も行われていることを確立した先駆者。

1970年代には無かったことなので衝撃的な内容だった。

エド・マロー

ウィリアム・ホールデン扮するマックス・シューマッカー報道局長「私はかつてエド・マロー(エドワード・R・マロー)とも仕事をしていたんだ」と、ハワード・ビール:ピーター・フィンチに言うシーンがある。

エド・マローは、CBSのキャスターだった人。

2005年公開の「グッドナイト & グッドラック」は、エド・マローがマッカーシズムに挑んだ戦いの過程を描いたジョージ・クルーニー監督作品。

エド・マローは1950年代に「赤狩り」をしていたマッカーシー上院議員を自分のTVショーに呼び出して、マッカーシー上院議員がしどろもどろで『赤は許せない!』とわめいているのをそのまま放送し、当時怒っていた共産主義者狩り(赤狩り)がいかに馬鹿馬鹿しいかをテレビでさらし、マッカーシー上院議員の政治生命を葬り去った。

そのくらい、報道のチカラというのは政治・世の中に深くかかわっていて、世の中を良くするために尽くすものなのだという「ジャーナリストの誇り」を伝えるためにエド・マローの名を出すが、もうそんな時代ではないという皮肉表現。

真の支配者:コングロマリット

実はテレビ局も巨大なコングロマリットの一部、いろんな産業の小さな一部に過ぎない。

コングロマリットがメディアをコントロールしている、という大きなテーマが作品の中で浮かび上がってくる。

UBSの親会社のACCの社長がハワード・ビール(ピーター・フィンチ)に「世の中というのはどういうものかわかっているか?」と言う。

実は強いものが勝つ世界なのだ、大企業が威張っているのは当たり前なのだ、だから逆らうな

(サウジアラビアという)石油資本に飲み込まれることを邪魔したキミは、弱肉強食という生物界の真理に逆らっている

キミは、民主主義とか国家などを信じているが、そんなものはもう無い

国家や民主主義の代わりにあるのは『金の流れ』だけだ

グローバルなビジネスだけだ

AT&T、ダウ・ジョーンズ、エクソンモービル、こういった大きな企業だけが世界を支配している

(そのことを)知らなかったのか?

ハワード・ビール(ピーター・フィンチ)は大きなショックを受ける。

ACC社長に言われたことを受け止められない・すでに病んでいるハワード・ビール(ピーター・フィンチ)はACC社長の言葉を「神の啓示」だと思い込み、神に怒られたとさらに病む。

Amazonオリジナルドラマ:ボーイズ

ハワード・ビール(ピーター・フィンチ)は「強いものが勝つ、大企業が世界を支配している、世界資本が世界を支配している、それが真実だ、私はそれに逆らってしまった」と本気で思い込んでしまう。

これは、Amazonオリジナルドラマ:ザ・ボーイズ season 4 (スーパーヒーローが邪悪で大企業と一体化してアメリカを支配しようとする)の中でセリフとして出てくる。

明らかに共和党の政治家らしい人たちと大企業のトップたちが秘密の会合を開いているところで、その中の1人が言う。

国にとか民族なんてものはもう無いんだ

存在するのはAppleであり、エクソンモービルであり、バークシャー・ハサウェイだけなんだ

大企業の金の流れだけが世界を支配している』ということ示しているセリフは、映画「ネットワーク」からの引用。

2000年代、ジョージ・クルーニーによって「ネットワーク」のリメイク案が上がったが、企画が通らなかった。

昔であれば画期的な内容で予言的な内容だったが、(1974年公開当時に)パディー・チャイフスキーが映画で表現したものは全て実現してしまい、特に真新しいものではないとのことで頓挫した。

報道のエンタメ化は、アメリカでは当たり前になっている。

1980年代にFOXニュースというテレビ局が誕生、共和党寄りの論調「戦争しよう」「貧乏人に金をやるな」などを放送して保守的な人たちを煽りまくる手法で視聴率を稼ぐという差別的な専門チャンネルを作ったため、リメイク案は真新しくなくなった。

いまではインターネットでもっとヒドイことが日々行われている。

現代の状況を予言したブラックコメディ作品として歴史に名を残した。

アカデミー賞:3部門受賞

「ネットワーク」はアカデミー賞を3つ受賞した。

  1. オリジナル脚本賞:パディー・チャイフスキー
  2. 主演男優賞:ピーター・フィンチ
  3. 助演女優賞:ベアトリス・ストレイト

主演男優賞:ピーター・フィンチ

ピーター・フィンチは授賞式の直前に心不全で亡くなっている。

ピーター・フィンチの代わりに、夫人がオスカー像を受け取った。

これと同じことがバットマンの「ダークナイト」でもあった。

ジョーカーを演じたヒース・レジャーが授賞式の前に亡くなり、遺族がオスカー像を受け取った。

このネットワークという作品は、ジョーカーと不思議な縁がある。

助演女優賞:ベアトリス・ストレイト

ベアトリス・ストレイトは、マックス・シューマッカー報道局長の妻:ルイーズ・シュマッチャーを演じた。

出演時間は、なんと5分40秒

ルイーズは、妻として家族に尽くしてきたのに裏切られたことを夫に熱弁する。

アカデミー賞史上、最も短い出演時間で受賞した

最後に

1974年公開の作品だが、2024年現在の世の中とそう変わらないモノが映し出されていた。

知人の鍼灸師さんが「株主至上主義だから株は触らない」と言っていた意味が分かった。

ずっと昔から思っていることがある。

貧困や紛争、少子高齢化や過疎地域、権力者による性被害、母子家庭や父子家庭、子供食堂や不登校、災害地域の優先度、長年放置されているご近所トラブルなど、本来なら国が表立って支援することをどうして民間人や民間企業が積極的に行っているのだろう、と。

権力者による性被害は、最近ではジャニーズ問題が記憶に新しい。

プチエンジェル事件」をご存知だろうか?

she said/その名を暴け」のハーヴェイ・ワインスタイン

アヴィーチやジャスティン・ビーバーが関わっているとされるディディ事件ショーン・コムズ

アメリカの富豪:ジェフリー・エプストンが所有する島(ペドフィリアの島)で子供の性的人身売買が行われ、関係者の中には誰もが知る人物の名前も出てきて世間を驚かせた。

困っている人がいるのに、被害にあっている人がいるのに、声を上げて訴えているのに、何も動かない。

国が動かない、行政が動かない、地域(市区町村)が動かない、法律も作用しない、こういったことがあまりにもよくあり過ぎる。

何で動かないのか、この映画を通してよくわかった。

こういった作品は、積極的に鑑賞したい。

埋もれることなく、残ってほしい。

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