久しぶりに胸糞悪い「事実」を目にした。
鑑賞中、少しずつ血の気が引いて、内臓が冷えていくのがわかる。
あらすじ
2017年10月5日。
ニューヨーク・タイムズ紙の女性記者、ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターが報道したスクープ記事は世界に衝撃を与えた。
世界中で社会現象となった「性犯罪告発運動=#MeToo運動」を爆発させ、社会を動かした記者と女性たちの実話をもとに、真実を追求したジャーナリストの物語を描く。
ピューリッツァー賞に輝いたニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー『その名を暴け…』を映画化。
映画ということを忘れるほどの没入感
「映画」ということを忘れてしまうほど没入感があった。
登場人物すべてが本人のように思えてくる。
作中は多くの女性が涙する、それは実際に自分の身に起きたことで泣いているように思える。
それほど真に迫った演技。
誰が俳優で、誰が本人なのかわからなくなる。
絶対的権力者:ハーヴェイ・ワインスタイン
ハリウッドの超大物プロデューサー:ハーヴェイ・ワインスタイン。
2023年現在、70歳。
長年、映画業界で「最も影響力のある人物」として君臨していた。
アカデミー賞最優秀作品賞を6回も受賞し、『パルプ・フィクション(94)』、『グッド・ウィル・ハンティング旅立ち(97)』などの製作を務めた。
ハーヴェイ・ワインスタイン プロデュース作品
- パルプ・フィクション(94)
- イングリッシュ・ペイシェント(96)
- グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(97)
- 恋におちたシェイクスピア(98)
- ギャング・オブ・ニューヨーク(02)
- シカゴ(02)
- キル・ビル(03) など。
<主なプロデュース作品>

選択
絶対的な権力の前で、人は選択を強いられる。
奪う側なのか、それとも奪われる側なのか。
権力に「生け贄」を捧げれば、自身の安全は確保される。
安全だけでなく、恩恵を受けることもある。
多少の権力、利権、カネ、仕事、そして自身の安全。
「見て見ぬふり」は暗黙の賛成だ。
それは人を壊すほどのパワーがある。
多くを手にすると人は変わる
絶対的な権力も、最初は純粋な映画製作意欲だったのだろう。
それが地位、名誉、権力、カネなどのいろんなものを手にするようになると、どこかで何かが狂い始めていく。
音声と会話
とある超高級有名ホテルでの出来事。
スクリーンに、2人の会話が文字で映し出される。
男性と女性の会話。
まくし立てるように早口で話す男性。
自分の意志を言い続ける女性。
場所は「廊下」だ。
あまりのおぞましさに、ゆっくりと自分の血の気が引いて、体温が下がっていくのがわかる。
ある人物の言葉①
ある人物が言う。
「なぜ昔の話ばかりする?」
ドクン、と私の心臓が跳ね上がる音が聞こえた。
ここから一気にストーリーは加速する。
ある人物の言葉②
ある人物が言う。
「私の義務だから」
ここで号泣してしまった。
決壊するダムのように激しく号泣した。
小さい子が泣き過ぎて過呼吸を起こしてしゃくり上げる、そんな泣き方。
私以外に観客がいなければ、声を出して泣いていただろう。
そのくらい、感情を抑えられなかった。
なぜ私はあんなに泣いたのだろう、不思議に思う。。。
人は瞬時に号泣できる、新しい自分を発見した瞬間だ。
女性たち
この映画には多くの女性たちが出演している。
メール、電話、対談、オンラインなど。
女性たちは、当時のことを語りたがらない。
忌々しい記憶を呼び起こさなければならない苦痛と、その時の恐怖と、当時の自分への悲痛と後悔、当事者にしかわからない惨痛。
関わった女性たちはみな、泣く。
そして、言わない。
明確にいうと「言わない」のではなく「言えない」のだ。
「言わない」と「言えない」。
ごく僅かな言葉の違いだが、この映画では天と地ほど差を持つ。
被害者を守るはずの「法律のシステム」が、被害者をずっと傷付けている。
加害者と被害者
加害者にとって「過去のこと」だとしても、被害者にはずっと続いている「今のこと」。
どんな加害者も同じことを言う、「昔のことを言われても困る」と。
今も心を傷付けられ続けている被害者はどうなる?
誰が、どの立場で、誰のことを、どう言うのか
いつでもそうだ。
誰が、どの立場で、誰のことを、どう言うのか。
同じ言葉でも「誰が言うのか」で印象と内容と重みが変化する。
それによって、他者の人生を破壊することがある。
誰かにとって「快適な環境」は、誰かにとって「最悪の環境」なのかもしれない。
ジャーナリズム
ひとりの小さな声が、波紋のように広がり、世界を動かす。
人を動かし、法を動かし、体制や制度を変え、国を動かす。
それがジャーナリズムだ。
最後に
この映画の内容は、ハリウッドに限ったことではない。
どこにでも起きること。
人間が集まれば、それこそどこででも起きてしまう。
国、地域、宗教、民族、企業、会社、町のコミュニティ、クラスメイト、それこそ家族でも。
この映画は、出るべくして世に出た作品だ。
そして、この映画に出演している女性たちは、多くが「母親」だ。
子供たちの世代は、泣く人が少ない未来が待っていることを切に願う。
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