映画「アウシュヴィッツの生還者」を観た感想

映画鑑賞の感想文
映画『アウシュヴィッツの生還者』公式サイト
8月11日(金・祝)新宿武蔵野館ほか公開

社会や世界史の授業で必ず目にするのが、戦争の歴史。

なかでもナチスとユダヤは凄惨な過去を持つ。

以前観た「アンネ・フランクと旅する日記」をはじめ、ユダヤ関連の作品を観ることが多い。

なぜユダヤ関連の作品に惹かれるのか、自分でも理由は分からない。

ものすごく興味を引かれる。

この映画もそう、フライヤーを見つけたとき「必ず観る」と心に決めた。

ハリー・ハフトの息子:アラン・スコットの著書を映画化。

ハリー・ハフトという男の人生を映像化したドキュメンタリーだ。

あらすじ

1949年、ナチスの収容所から生還したハリーは、アメリカに渡りボクサーとして活躍する一方で、生き別れになった恋人レアを探していた。

レアに自分の生存を知らせようと、記者の取材を受けたハリーは「自分が生き延びた理由は、ナチスが主催する賭けボクシングで、同胞のユダヤ人と闘って勝ち続けたからだ」と告白し、一躍時の人となる。

だが、レアは見つからず、彼女の死を確信したハリーは引退する。

引退から14年、ハリーは別の女性と新たな人生を歩んでいたが、彼女にすら打ち明けられない更なる秘密に心をかき乱されていた。

キャスト

ハリー・ハフト ベン・フォスター アウシュヴィッツの生還者
ミリアム ヴィッキー・クリープス 移民サービスで働く女性
シュナイダー ビリー・マグヌッセン ナチスの親衛隊中尉
エモリー・アンダーソン ピーター・サースガード スポーツのジャーナリスト記者
レア ダル・ズーゾフスキー ハリーの初恋の人
ペペ・ミラー ジョン・レグイザモ  
チャーリー・ゴールドマン ダニー・デヴィート 王者:ロッキー・マルシアーノのトップセコンド

上映劇場

エラー

モノクロとカラー

色によって「いつ」の出来事なのかを表現している。

モノクロが過去、カラーが現代

カラーの中に、ときおり現れるモノクロが、ハリーのトラウマとリンクしているように思える。

トラウマによるフラッシュバック。

それはものすごい脅威であり、激しく戦慄させ、過去のことなのに「いま」起きているように感じられ、パニックを起こし、苦悶する。

観客は、ハリーのトラウマとフラッシュバックを体験しているような感覚に陥る。

まるで別人

強制収容所のハリー。

アメリカでボクシングをするハリー。

どちらも同一人物、なのに別人に思える。

俳優の徹底した役作りの賜物たまものだ。

かもし出す雰囲気、圧力というか、オーラというか、目に見えない「なにか」を感じさせられる素晴らしい俳優だと思う。

積まれたもの

視線の先には「何か」が積まれている。

少しずつアップになる、そこで気付く。

殺害されたユダヤ人たちの死体、無数の死体が横たわっている。

これから焼却処分される死体は、全裸だ。

ユダヤ人は「人間として扱われていない」というのがよくわかる構造になっている。

スポーツ誕生の由来

この映画を観ているとスポーツ」がどのようにして誕生したのかがよくわかる。

強制収容所でボクシングをするハリー。

なぜボクシングをすることになったのか

ボクシングをすることで何を得られるのか

この構造にすることで「スポーツの起源はそういうことだった」というのがよくわかるし、歴史をたどればそういうことばかりだと気付く。

ハリーはプロボクサーとして活躍した、この背景にはとても重いものがある。

それは、現代のスポーツとは大きく違っている。

日本では選手宣誓において定番の「宣誓、我々選手一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々戦うことを、ここに誓います。」がある。

八百長や忖度なく、全力を出し切って、相手とぶつかる、それがスポーツ。

同じスポーツでも、時代が違えば別物になる。

76戦

ハリーは収容所で76回、ボクシングで戦った。

この「76」という数字、何を意味するのか。

単純な勝利数ではない。

その意味とは…。

帽子

帽子」はこの作品において重要な役割がある。

モノクロのときのこと。

帽子について触れるシーンがある。

たったそれだけのことで?と思ったが、理由は案外どうでもいいのだろう。

結果としていずれそうなるので、いつ起きようが構わないのだろう。

ドアスコープと褒美

一見、つながらない2つの言葉。

ドアスコープ」と「褒美」。

比較的どこでも見られるドアスコープ、ドアに設置された覗き穴。

ドアスコープをきっかけに、強烈なフラッシュバックが起きる。

ここで「褒美」が何なのかがわかる。

「勝者」の「褒美」、3Sのひとつだ。

刺さった言葉とシーン

刺さった言葉が2つある。

刺さったシーンが1つある。

呼吸して2時間の赤ん坊に何の罪があるというのか

いつ、どこで、誰によって誕生したのか。

それによって命の重さが変わる。

信仰を理由に追われる恐怖を知らないでほしい

ユダヤ人とはなにか。

なぜホロコーストが起きたのか。

なぜユダヤ人なのか。

これらを知っていると「信仰」の意味が分かる。

触れたくない記憶のシーン

後半、もっとも触れたくない記憶のシーン。

現代のキッチンで、ミリアムに「あること」を告げる。

そのシーンは、心の奥底に刺さるというより、深くえぐる傷をつけた。

時間の流れの表現

芸術を楽しむには「知識」と「教養」が必要だ。

映画において、時間の流れの表現方法はいくつかある。

人体の変化は「老化」で時間の流れがわかる。

もうひとつ、時間経過において意外なもので判断できる、それが「」がある。

車の形でおおまかな年代がわかるので、いつの年代なのかが理解できる。

こちらのアカウントが分かりやすいと思う。

知識があれば、表現の意図と意味が理解できる。

ハリーの生涯

1925年7月28日ポーランドで誕生する。

ユダヤ人のハリーはアウシュヴィッツに強制送還される。

強制収容所から生還し、プロボクサーとして活躍する。

プロボクサーを引退、結婚して3人の子供(息子・娘・息子)に恵まれる。

2007年4月、癌のため逝去、82歳。

原題:The Survivor

「アウシュヴィッツの生還者」という日本語タイトルだが、原題は「The Survivor」。

Survivorサバイバー の意味は、助かった人、生き残った人、生存者。

生存 この世に生きて存在すること
生還 危険な状態を切り抜けて生きて帰ること

知識と教養

絵画や映画、文書や書物など、あらゆる芸術を理解するには知識教養が必要だ。

知識 ある物事について知っていること 何を知っているか 情報の記憶
教養 多くの知識を身につけることで得ることができる心の豊かさのこと 深く考えて感じることができる 精神面の理解力

社会情勢や政治・宗教紛争などは直接表現できないことが多く、風刺が効いた表現にすることで検閲をすり抜けて世に出ることができる。

芸術を介して人々は「いま」「なにが起きているのか」を知ることができる。

知った上で、どうすればいいのかを考えるようになる。

考えたから、なにかしらの行動に移せる。

歴史や時代背景を知れば、人間を知ることができる。

人間が歴史と時代を作ったからだ。

なぜそうしたのか。

なぜそうなったのか。

もっともっと知りたい。

最後に

ハリーは「生きる」ことを選んだ。

それがなにを意味するのかをわかった上で、生きることを望んだ。

愛する人を探す、果てしなく道のり。

その道中には、痛々しい記憶が並び、ときおり顔を覗かせて、ハリーを猛烈に苦しめる。

1人で抱えるには重すぎる、かと誰か言って話せば再認識して苦痛が蘇る、吐露しても閉口してもまた苦悩。

おぞましい歴史の記録、この映画は実話を基にした作品だ。

人間とはなにか、この映画が物語っている気がする。

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