字幕版・吹替版、AmazonのPrime会員は無料で鑑賞できる。
2023年4月いっぱいでPrimeVideo配信が終了。
以後、有料配信に変わる。
あらすじ
19歳のアンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)は、バディ・リッチのような「偉大な」ジャズドラマーになることに憧れ、アメリカ最高峰の音楽学校:シェイファー音楽院へ通う。
アンドリューを男手ひとつで育てている父:ジム・ニーマン(ポール・ライザー)も、良き理解者としてアンドリューを支えている。
ある日、アンドリューが教室で1人ドラムを叩いていると、学院最高の指導者と名高い:テレンス・フレッチャーと出会う。
後日、アンドリューが学ぶ初等クラスをフレッチャーが訪れ、自身が指揮するシェイファー最上位クラスであるスタジオ・バンドチームにアンドリューを引き抜く。
迎えた練習初日、フレッチャーのバンドでは、生徒はみな死刑宣告を待つ人のように下を向き、場には緊迫した空気が流れる。
開始早々、フレッチャーはバンドメンバーに罵詈雑言を浴びせはじめ、1人を退場させる。
フレッチャーは一流のミュージシャンを輩出するのに取り憑かれ、要求するレベルの演奏ができない生徒に対し、人格否定や侮辱を含めた罵声や怒号も厭わない狂気の鬼指導者。
その矛先はさっそくアンドリューにも向けられ、ほんのわずかにテンポがずれているという理由で椅子を投げつけられる。
さらに他のメンバーの目の前で頬を引っ叩かれ、屈辱的な言葉を浴びせられ、アンドリューは泣きながらうつむく。
アンドリューはこの悔しさをバネに、文字通り血のにじむような猛特訓を始める。
キャスト
役名 | 俳優 | 役柄 |
アンドリュー・ニーマン | マイルズ・テラー | プロドラマーを夢見る19歳の学生 |
テレンス・フレッチャー | J・K・シモンズ | 学院最高の指導者と名高い鬼才 |
ジム・ニーマン | ポール・ライザー | アンドリューの父 |
ニコル | メリッサ・ブノワ | 映画館でアルバイトをする女子大生 |
マイルズ・テラーといえば、2022年5月公開の「トップガンマーヴェリック」でルースター役が記憶に新しい。
イヤホン必須
この映画を鑑賞するときは、できればイヤホンで鑑賞してほしい。
ノイズキャンセル機能があると、なお良い。
生活音を遮断したうえで鑑賞すると、まるでその場に自分がいてキャストの間近で聞いているような感覚になる。
原題:Whiplash(ウィップラッシュ)
原題の<Whiplash>は「ムチ打ち症」の意味で、ジャズの有名曲の題名であり、作中で何度か演奏される練習曲の一つ。
また、首に大きな負荷がかかるドラマーの職業病でもある。
日本を代表するプロドラマー:YOSHIKIも同様に、首に爆弾を抱えている。
練習シーンにて
アンドリューが1人で黙々と練習するシーンがいくつかある。
その際、ドラムの音のさらに奥にウッドベースや管楽器などのドラム以外の楽器の音がする。
できれば、ドラムの音のみにしてほしいなー、と思った。
ん?……、もしかして、アンドリューが頭の中でメンバーと演奏しているという演出なのか?
追求と妥協
極める人は、妥協ができない。
というか「妥協」という選択肢は存在しない。
突き詰めたい。
自分が思い描く「完成」に近付くために。
どんな小さなミスも許せない、完璧に仕上げないと気が済まない。
飽くなき探求心は、ときに人を傷つける。
常に現状に満足できないという、ある種、精神的に罹患しているも同然だ。
思うこと
向いていなくても好きで続けるのと、向いているのに惰性で続けるのとでは、どちらがいいんだろう?
挫折と捉えるのか、それとも現状を分析した上で違う道を選ぶのか、言い方を選んでいるだけなのか。
どれにするのかは自分次第なのだろう。
あと、映画を見終わって思うこと。
恋愛要素は要らないんじゃないかな?
音楽に特化した作品にすればいいのに、と感じてしまった。
またね
またね。
日常的に使う言葉。
あいさつ程度の、比較的軽い言葉。
改めて考えると、とても美しい言葉だ。
次があることを楽しみにしている、希望の言葉。
そして、再びあなたに会いたい、という親愛の言葉。
理解
人は、経験したことのないことには理解を示せない。
親戚が集まるダイニングでのシーン。
音楽界に理解のない親戚たちからは良くは思われていないアンドリュー。
親戚の息子たちの「模擬国連議長」や「学生アメフトMVP」という活躍は誇られ、アンドリューの活躍は軽視されてしまう
「勝敗」は、差別するのに分かりやすくて簡単な手段だ。
音楽
あらゆるシーンで聞こえる楽器の音。
目を閉じて、楽器の音に耳を澄ませる。
機械で人工的に作る音も良いが、楽器が生み出す音に魅力を感じる。
演奏するたびに変化する音、それがまた味があって良い。
同じ楽器でも、演奏者によって音が違う。
1つのドラムセットを3人のドラマーが代わる代わる演奏するシーン。
叩く人が代わると、音も変わる。
これがまたとてもおもしろい。
スネアが大きく聞こえる人もいるし、シンバルが大きく聞こえる人もいる。
人が作り出す音は、1つとして同じ音は存在しない。
以前観た「BLUE GIANT」の感想記事に「演奏者によって変わる音」について書いている。
余談だが、テラーはジャズドラマーを演じるため、2か月間、1日に3~4時間ジャズドラムの練習を続けた。
撮影では自ら演奏しており、作中の手からの出血はマイルズ本人のもの。
メンタルの影響力
メンタルがパフォーマンスに与える影響は凄まじい。
以前、プロバスケットの試合を観戦したときのこと。
試合本番前、コート内でシュート練習する選手たちを眺めていた。
驚くほどスパスパとシュートが入る、ボールがゴールに吸い込まれていく。
練習時のシュート成功率は9割以上、ほぼシュートが決まる。
それが、試合本番になると途端に成功率が下がる、3~4割くらい。
試合状況やメンバーの位置など「考えなければならない要素」が多く、しかも瞬時に判断して動かなければならない。
どんな状況でも平静を保ち、ぶれないメンタルで仕事をこなす、それは容易なことではない。
逆を言えば、メンタルがぶれると平常心を保てなくなるということ。
元ヤクルトスワローズの野村克也さんは、捕手として守備に就いた時には相手打者にささやくこと「ささやき戦術(トラッシュ・トーク)」で集中力を奪うことを得意としていた。
メンタルがパフォーマンスに与える影響は甚大だ。
CARAVAN
ラストのキャラバンは本当に完璧だった。
アンドリューのドラムをキッカケに、キャラバンが始まる。
何一つ乱れない演奏に、瞬きを忘れるほど見入ってしまう。
そして、ラスト9分47秒、ここからが圧巻の連続。
少しずつ照明が落ちて暗くなっていくステージの上で鳴り響くドラムの音。
思わず息を呑む、狂気に満ちた、あの連打。
猛烈な高速連打、音の粒を豪速で投げつけられているような激しい連打。
からの、ボコボコと沸騰するお湯が徐々に熱を放出して穏やかになるようなスローなテンポ。
ゆっくりと、さらにゆっくりと、そう、落ち着いて穏やかな平常心の鼓動のようなスローテンポ。
そこから、さらに、さらにゆっくりと、いまにも止まりそうな、音の先にある世界、無音世界に近付くほどのスローテンポ。
からの、テンポアップ。
徐々に徐々にテンポアップしていくその速度と流れが完璧すぎる、ものすごく気持ちがいい速度。
激しい音の洪水、全身に鳥肌が立つ。
本当に素晴らしい。
そして、この終わり方はとても美しい。
グッと息を止めて静観していて、やっと息継ぎができた、そんな終わり方。
固く握りしめた手の血流が止まる感覚、気付くと全身がこわばっていた。
思い切り息を吐きだすと、一緒に体のチカラも抜けて、全身に血が巡り出す。
最後に
この作品を映画館で見なかったことを心底悔やむ。
できればドルビーシネマで鑑賞したい。
私の中の「過去に見逃したけどいま再上映したら絶対に観る映画」にラインクインした。
ちなみに、ランキングはこちら。
- オペラ座の怪人
- ゼログラビティ
- セッション
- 飛んで埼玉
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