この映画のことを知ったのは、たしか2023年1月あたり。
映画のフライヤーをチェックしていて、目についた。
「すべてが逆転する」
この言葉にものすごく興味を持った。
公開日は2月23日とあるが、タイミングが合わずに見逃してしまい意気消沈。
しばらくして地元の映画館:ヒカリ座で上映すると知る。
盛大なネタバレ記事なので、まだ鑑賞していない人はご注意を。
あらすじ
売れっ子モデル&人気SNSインフルエンサー:ヤヤと、男性モデル:カールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。
リッチで曲者だらけな乗客がバケーションを満喫している。
客室乗務員は、高額チップのためならどんな望みでも叶えるべく笑顔を振りまいている。
船内はゴージャスでカオスな世界。
しかしある夜、船が難破。
そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。
食べ物も水もSNSもない極限状態に追い込まれる中、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった。
キャスト
役名 | 俳優 | 人柄 |
カール | ハリス・ディキンソン | 落ち目の男性モデル、恋人のヤヤとの関係に陰りが見え始めている。 |
ヤヤ | チャールビ・ディーン | 超人気モデル&SNSインフルエンサー、かなり高収入。 |
アビゲイル | ドリー・デ・レオン | 豪華客船のトイレ清掃スタッフ。 |
トーマス・スミス船長 | ウディ・ハレルソン | 酒浸りで自室に引きこもる。 |
ディミトリー | ズラッコ・ブリッチ | ロシアの新興財閥「オリガルヒ」の経営者、有機肥料で財を成す。 |
ベラ | ズニー・メレス | ディミトリーの妻。 |
ヤルモ | ヘンリク・ドルシン | 1人で乗船した金持ち、アプリ用コードを売る仕事をしている。 |
テレーズ | イリス・ベルベン | 脳卒中の後遺症により言葉は理解できるが話すことはできない、唯一話せる言葉は「イン デン ヴォルゲン(雲の中)」 |
ウリ | ラルフ・シーチア | テレーズの夫、言葉が話せない妻を献身的に支えている。 |
ウィンストン | オリヴァー・フォード・デイヴィス | 上品な英国紳士、武器製造会社を家族で経営している。 |
クレメンティン | アマンダ・ウォーカー | おしとやかな老婦人、ウィンストンの妻。 |
リュドミーラ | キャロライナ・ギニング | ディミトリーの愛人。 |
ポーラ | ヴィッキ・ベルリン | 豪華客船の客室乗務員、高額チップのために金持ちたちのどんな要求にも対応する。 |
ダリウス | アルヴァン・カナニアン | やる気のない一等航海士。 |
ネルソン | ジャン=クリストフ・フォーリー | 豪華客船の機関室担当スタッフ。 |
チャールビ・ディーン
人気モデル&SNSインフルエンサーのヤヤ役のチャールビ・ディーン。
彼女は6歳からモデルを始める。
2009年に交通事故により脾臓を摘出、腹部に大きな手術痕がある。
2010年、トロイ・シヴァン主演の映画「Spud(原題)」で女優デビュー。
2022年8月29日、犬猫の口の中に存在する細菌カプノサイトファーガを原因とする細菌性敗血症のためニューヨークの病院で死去、32歳。
この「逆転のトライアングル」は遺作となった。
上映映画館
モデルのオーディション
冒頭、男性モデルのオーディション、上半身をさらけ出して待機している。
半裸の、いろんな人種の、半裸の男が数十人が集まっている。
半裸の男性モデルたちにインタビューする男性。
高級ブランドのモデルは無表情、庶民的なブランドは満面の笑み、という演出をいじっている。
高級ブランドは無表情、購入者を見下す感じで「この商品が君たちに合うとでも?」みたいな感じで、そうそう、その顔w
(`・_・´) キリッ
手を出しやすいブランド(庶民向け)は煌びやかな笑顔で、そうそう、その笑顔www
(*´∇`*) ニッコリ
バレンシアガ
(`・_・´) キリッ
H & M
(*´∇`*) ニッコリ
これを繰り返してる。
現代社会にはびこるルッキズムをいじっているのだけど、私はその世界に疎いのでよくわからない。
ゆえに「なにを見せられているんだ?」となった。
ルッキズム | 外見重視主義 | 容姿の良い人物を高く評価する、容姿が魅力的でないと判断した人物を雑に扱うなど、外見に基づく蔑視を意味する場合もある。 |
パート1<男と女>
- 売れっ子モデル・SNS人気インフルエンサーの女:ヤヤ
- 落ちぶれモデルで収入も少ない男:カール
2人のモデルカップルの話。
女が「行きたい」と言った高級レストランで食事する2人。
デザートを食べ終わった男、食べかけのデザートをそのままにスマホをいじりまくる女。
女はSNSのインフルエンサー、写真を投稿すると反響がある。
インフルエンサー | influencer | 世間や人の思考・行動に大きな影響を与える人物のこと | 影響や勢力、効果といった意味を持つ「influence」という英語が語源 |
レストランスタッフが来て、テーブルに伝票を置く。
男は伝票をチラチラ見ている、女はスマホから目を離さない。
ここで男が動く。
僕たちは平等で居たい
なんのこと?
君は昨日『明日のディナーは私が出すわ』そう言った
そうだっけ?
男は言葉を選びながら丁寧に、ものすごく薄いオブラートで包みきれていない不満を口にする。
支払いはいつも僕だ。
でも君はすごく稼いでいる。
僕たちは平等で居たい。
支払うだけの自分で居たくない。
男が支払うのは普通でしょ?
そんなにお金が惜しいの?
そうじゃない、対等の関係で居たいんだ。
こんな感じの会話をしばらく続け、やっと女がクレカを出す。
すると、女のカードは使えなかった。
しかたなく男が「僕が立て替えるよ」と男のクレカで支払う、明らかに「解せぬ」という表情の女。
高級レストランを後にした2人は、宿泊先のホテルに向かうタクシーの中でも話し合っている。
またしても支払いがどうだ、金が惜しいのか、男が~、女が~、と繰り返している。
女は白状する、食事などの支払いを男に「意図的」に出させていたことを。
女は言う「これからはビジネスの関係で居よう」と。
女のSNS活動に協力し、男はそのおこぼれをもらう。
男女の性役割と期待される行動
このパート1では「男女の性役割と期待される行動」について描かれている。
日本でもたびたび話題に上がる「男は女におごるべき」という考え方。
礼儀や作法という見方もあるが、食事代を男が出す(男がおごる)というのは、どちらかというと男が自分を良く見せるためのパフォーマンスだと思う。
金の雨が降ると言われたバブル期「メッシーくん」がその代表だ。
自由に使える金の多さ(金持ち)・支払い能力の強さ、金を稼ぐ能力、社会的地位の高さなどのアピール。
そして、女は上記のことを理解したうえで男を立てる行動が密かに求められている。
男がスマートに支払いを済ませられるような配慮とか、女が自分の分を支払う場合は外に出てからひっそりと、男がおごることを当たり前のように思っていないですよアピールのために財布をチラつかせてみたり。
必ずしも男が女におごるわけではない。
男は、女であれば誰もが喜んで金を出すわけではない。
誰かが言っていた「おごる価値のある人(女性)に金を出す」なるほど、上手い。
先輩と後輩
似たような話題だと、先輩が後輩におごるというもの。
吉本芸人の社会では、年齢や収入問わず「(芸歴が長い)先輩が(芸歴が浅い)後輩にごちそうする(おごる)」という独自の文化。
売れていなくて薄給でも先輩ならば、たとえ後輩が金持ちの子だとしても、ごちそうするのだ。
宵越しの銭は持たない
落語には、江戸っ子の気前の良さを表した「宵越しの銭は持たない」という言葉があり、金離れの良さをアピールするのが粋という文化がある。
あかね噺:第9話「三方一両損」
「その日の収入は、その日のうちに使い切る」というもの。
自分の飲食だけでなく、人の分も支払ってまで使い切ろうとする、それが宵越しの銭は持たないである。
パート2<船上>
モデルだけでなくインフルエンサーとしても人気のヤヤは、豪華客船クルーズ旅行に招待される。
カールは、ヤヤの同伴者として一緒に乗船する。
豪華クルーズ船なので、桁違いの金持ちばかりが乗っている。
人種もさまざま、年齢もさまざま、子供や赤子もいる。
このあたりから「いやいやいや、それはないやろ」が私の中で発動する。
ここがまた長い(笑)
客室乗務員たち
客室乗務員たちは、いわば客の奴隷。
客のリクエストに答えれば高額チップがもらえる!と奮起する。
なので、理不尽な要求にも笑顔で答える。
白人の老女、プールで1人楽しんでいる。
若い女性客室乗務員を呼び止め、話し相手になってもらう。
※会話を覚えてないからニュアンスで解説
私はここでリフレッシュしている。
船で働くアナタたちにもリフレッシュが必要だと思うの。
私はこうしてプールでリフレッシュしている、だからアナタもプールに入るべきよ。
いまは仕事中なのでプールに入ることはできません(笑顔)
プールに入って。
それはできません(笑顔)
このやりとりをしばらく続ける。
老女はリフレッシュを与えたいだけなのに、思い通りに動かないスタッフにモヤモヤする老女は強行手段をとる。
これは命令よ、いますぐプールに入りなさい。
……かしこまりました(笑顔)
満面の笑みでプールへダイブする客室乗務員。
これに味を占めた老女、癒しを与えるべく船にいるスタッフにプールに入ることを要求する。
もちろん、全員。
清掃スタッフからエンジンなどのメカニックスタッフ、仕事中の厨房スタッフも。
シーンは変わって、船からスライダー(空気で膨らむ緊急用)が出ていて、次から次へと海にダイブするスタッフたち。
老女は興奮して ヒャッハー ヽ( ゚∀゚ )ノ している。
ここでひとつ、大きな問題がひそかに進行する。
キャプテンズ・ディナー
このクルーズ船では、船長とディーナーするという「キャプテンズ・ディナー」というイベントがある。
船長と楽しくお話をしながら食事をするという大きなイベントだ。
ここで問題発生。
まず、船長が職務放棄の真っ最中。
「仕事をしたくない」と飲んだくれて部屋に篭城。
客室乗務員の総括女性が説得するも、ダダをこねて篭城。
明日の夜はキャプテンズ・ディナーですよ。
準備に取り掛からないと!
やだ、ぜったいやだ、部屋から出ない!
明日はディナーしない!
やだ!(泥酔)
しかたない…日程を変更しましょう。
……木曜だ、木曜の夜にやる!(泥酔)
木曜は天候が悪いです、無理です。
やだ!
絶対に木曜にやるんだっ!(泥酔)
なんだこれ…という思考が見え隠れする私。
なんとか木曜の夜に船長復活。
ビシッと正装の船長がレストランでお客様をお出迎え。
ここであることに気付く。
船長、斜めってる。
立ってるんだけど、斜めなんだよ。
これが天候悪化の演出なのね。
運ばれてくる飲み物の水面も、わずかに斜めってる。
窓に打ち付けられる荒波、きしむ音が鳴り響くレストラン。
嫌な予感しかしない。
高級料理に酔いしれる
キャビア、ウニ、トリュフなどの高級食材をふんだんに使った至極の料理が次々に運ばれてくる。
目にも鮮やかな、とても美味しそうな料理ばかり。
酒を飲み、料理に舌鼓する客。
少しずつ、変化が起きる
客の会話が、止まりがちになる。
客の動きが、止まりがちになる。
フリーズする客が増えてくる。
ここで思い出していただこう。
そう、プールのシーン。
スタッフ全員が持ち場を離れ海へとダイブした、あの出来事。
そう、食材が傷んでしまったのだ。
それに加えて、荒れる海。
激しい船酔いと、傷んだ食材による食中毒。
レストラン内で乱発する嘔吐。
もう、見事なマーライオン。
そこかしこのテーブルでマーライオン。
私は なにを 見せられてるんだ?
元気な2人
こんな阿鼻叫喚のなかで、2人だけ元気なのが居る。
飲んだくれ船長と、有機肥料で大もうけしたロシア人の白髪老人。
周囲をまったく気にせず、飲みまくっている。
客が居なくなり薄暗くなったレストラン内で、トランプを使って「このカードは何色だ?」をして遊びながらまだ酒を飲んでいる。
これは赤?それとも黒?
黒だ!
はずれ~(笑)
さぁ、酒を飲め。
あちゃー(笑)
(ワインを一気飲みする)
これを数分見せられる。
その後、船長室?に移動し、またしても飲みまくる2人。
絵に描いたようなダメな大人が2人。
そこでは「偉人の名言」を言い合うという、どうでもいい遊びをし始める。
しばらく偉人名言を言い合い、ある程度満足した2人。
今度は民主主義だの社会主義などを語り始める。
しかも、船長室だからなのか、船内全室に通じるマイクがあり、それをONにして語り始める。
ワタシハ ナニヲ 見セラレテイルンダ…。
阿鼻叫喚、再び
ところで、レストランでのマーライオン事件。
誰も船の舵を取っていない。
そりゃそうだ、だって、キャプテンズ・ディナーですから。
船長や副船長も、ディナーに参加して客をもてなしているのだ。
本来なら、天候の安定している日に行うはずのイベント。
それを、悪天候の日に決行したのだから、そりゃそうだろう、と。
航海士の居ない船は、荒れ狂う海にもみくちゃにされ、客たちは食中毒と船酔いでカーニバル。
カーニバル | 本来は「謝肉祭」というキリスト教の宗教行事 | 仮装やパレードを楽しむ行事 |
フェスティバル | 一般的なお祭りのこと | 大勢の人が集まってテーマに沿った催し物を行う |
自室に戻った客を襲うのは、逆流したトイレの中身。
上から下からカーニバルの客。
打ち付ける波ときしむ音に恐怖する客。
逆流し続けるトイレの中身から逃げられない客。
グッタリしてるところに船が激しく揺れるのでアッチコッチにゴロゴロと転がる客。
まだ民主主義だの社会主義だのを言う泥酔オッサン2人の声が船内に響く。
総括女性がドアを叩き、いますぐ放送を止めるように訴えるも、船長は泥酔なので「万事OK♪」みたいに会話が成立していない。
船の行く先
地獄のような夜を越え、穏やかな朝を迎える。
昨夜の嵐がウソのように、静まり返った海。
デッキに出た老夫婦客は「とっても良い朝ね」と。
すると、画面の端に不穏な影が。
豪華客船とは別の船が居る。
それに気付かない老夫婦。
澄んだ朝に満足げな老夫婦の足元に、何かが転がってきた。
あら、なにかしか。
あ、これ、私たちの会社の商品だわ。
おお、我が社の商品だなぁ!
わはは!
この転がってきた商品とは……。
そう、手榴弾である。
BOOOOOOM
文字通り爆発する豪華客船。
わかりやすく沈没する豪華客船。
さぁ、ここからが第三章の無人島だ。
パート3<無人島>
無人島に流れ着いたモデルカップル。
2人は抱き合い、生きていることの喜びを噛み締めている。
生存者たち
周囲を見渡すと他にも人が居る。
- 泥酔演説者の老ロシア人
- 一緒に旅行するはずの彼女にフラれた中年ハゲ男
- 初登場の若い黒人メカニックスタッフ
- 男モデル
- 女モデル
- 総括スタッフ女性
- 脳卒中の後遺症で足と言語に障害が残ったアジア系中年女性はゴムボートに座っている
↑
7人が生存者。
浜辺で途方にくれる。
どうにか夜を越え、朝を迎えると、浜に何かがある。
緊急脱出用の船(救命ボート)だ。
金属製の、しっかりしたつくりの小型船、転覆の心配がないカタチの船。
総括女性は、客の安全と生存の責務があるので、必死に船を叩く。
さて、今回初登場。
中に居たのは、トイレ清掃スタッフ長のアジア系中年女性。
わかりやすいアジア系の顔をした中年女性。
彼女が加わり、生存者は合計で8人に。
総括女性は、中年女性の無事を確認した後に「水と食料はあるのか」と訊ねる。
中年女性は、しぶしぶペットボトルの水とポテチを取り出す。
総括女性は客たちにもペットボトルを手渡し「貴重な水よ、大切に飲んで。」と言い、ゴクゴクと飲む。
大切な水なのにガブ飲み(笑)
一時的に水と食料を確保した遭難者たちは、満たされたことに満足している。
キャプテンは誰だ?
ふと海を見ると、水面で何かが動いている。
よく見ると、中年女性だ。
水面から顔を出し、またすぐに潜り、しばらくして、顔を出す中年女性。
遭難者たちの元へ歩く中年女性の手には、タコが。
総括女性は「アビゲイル(中年女性)がタコを獲りました!」と叫ぶ。
歓喜する遭難者たち。
総括は言う「誰かこのタコを捌ける人は?」。
………。
総括は言う「誰かこのタコを調理できる人は?」。
………。
けっきょく中年女性がすべての作業をすることに。
大きなタコを石で焼き、ハーブのような葉を散らし、ライムのような緑色の柑橘系のナニかをしぼり、調理し、できあがったタコ料理を仕分ける中年女性。
これはアナタの、これはワタシの、と交互に配布していく。
1つをアナタ(老ロシア人)に、1つをワタシ(中年女性)に。
1つをアナタ(中年ハゲ男性)に、1つをワタシ(中年女性)に。
1つをアナタ(足の悪い中年女性)に、1つをワタシ(中年女性)に。
1つをアナタ(男モデル)に、1つをワタシ(中年女性)に。
1つをアナタ(女モデル)に、1つをワタシ(中年女性)に。
1つをアナタ(黒人男性)に、1つをワタシ(中年女性)に。
1つをアナタ(総括)に、1つをワタシ(中年女性)に。
中年女性のタコ、めっちゃ量が多い(笑)
総括は「なにかおかしくない??」と中年女性に言う。
中年女性「別におかしくない」。
中年女性の主張は「漁も下処理も調理もすべて私がやってる、取り分が多いのは当然の事」。
中年女性「ここでは金持ちも貧乏人も関係ない、ましてや総括がキャプテンではない、ここではワタシがキャプテンだ」。
中年女性は遭難者たちに問う。
黒人男性へ「ここでのキャプテンはだれ?」
黒人男性は「アナタです」。
黒人男性にタコを1切れ投げる。
それを食す黒人男性。
このやりとりを見た遭難者たちは、問われると「キャプテンはアナタだ」と言い、タコをもらう。
無人島生活と漂着物
この無人島生活、かなりグダグダ。
TBS「アイアム冒険少年:脱出島」を見ているせいか、生存危機の無いユルッユルの行動にありえなさを感じざるを得ない。
だれも住処を確保しないし、水を確保しないし、状況を知るために周囲を散策もしない。
なんだこれ…。
まあ、そこらへんは省くにしても、まったく危機感の無い遭難者たちに見ていて「なんだかなー」と私の中の阿藤快が顔を出す。
たしか、無人島生活2日目か3日目あたりで、海岸に豪華客船の客が流れ着いた。
救命胴衣を着ているも、水面の漂い方で死んでいるのがわかる。
演説老ロシア人の嫁も流れ着いた。
抱き上げ、嫁の死を嘆きながら泣き叫ぶ演説老ロシア人。
嫁の手には、大きな輝きを放つ宝石ビッシリの指輪。
泣きながらこれを外す。
形見としてなのか?
嫁の首には、キラッキラ宝石のネックレスが2つ。
もちろん外す演説老ロシア人。
あ、これ換金するつもりだな。
イニシアチブ(主導権)
主導権を独占する中年女性は、しだいに暴走する。
ようは女王様だ。
漁、下処理、調理、火起こしなど、すべてを一気に担う中年女性に誰も逆らえない。
ある日の夜、男モデルは中年女性に呼ばれて緊急船で睡眠をとることに。
これは中年女性の命令。
若い白人男性と、女王様の中年女性。
中で何が起きているのかは、ご想像通りのこと。
この夜からずっと、毎晩を2人で過ごしている。
理由は「中年女性を性的に満足させれば隠しているスナック菓子を施してくれる」からだ。
施されたスナック菓子は、女モデルに分け与えている。
この取引状況を好ましく思わない女モデル、しかし引き換えにスナック菓子がもらえるけどモヤモヤが消えない女モデル。
女モデルは、食料のために「なるべく中年女性の機嫌を損なわないで」と言う。
男モデルは「これは取引だから」と女モデルをなだめる。
これがまた長いのなんのって…(遠い目)。
ラスト<ネタバレ>
無人島生活、どのくらいの時間が経過しただろう。
ゴムボートの上で座るしかできない脳卒中女性。
寝起きなのか、それとも昼寝なのか、朦朧とする意識のなかで、どこからか声が聞こえる。
言葉の分からない国の言語だ。
どうやら、なにかを歌っているようだ。
この分からない言語を話す人は遭難者の中に居ない。
ハッとする脳卒中女性。
後遺症で上手く言葉を発せられないが、声を出すことはできる。
なので、とにかく大声で発声。
すると、その歌の人が近付いてくる。
笑顔の黒人だ。
遭難者のメカニック黒人とは、別の男性だ。
この黒人男性は、頭にいくつもの麦わら帽子をかぶり、竹ざおには洋服やカバンをいくつもぶら下げている。
要するに、物売りの少年だ。
少年は笑顔で母国語で「何か買う?」と聞く。
脳卒中女性は(黒人少年の言葉は理解できないが、この人をここで逃したら遭難から脱出できない、助けを請うことができない!)と思い必死にすがりつき、唯一話せる言葉「イン デン ヴォルゲン(雲の中)」を繰り返し叫ぶ。
そのさまに恐怖を覚える黒人少年は「買わないのかよ…怖い女だ…」とその場を去る。
逃がしてはなるか、と思いっきり「イン デン ヴォルゲン!!!(雲の中)」と叫ぶも、遠ざかる黒人少年。
場面は変わって、女モデルは中年女性に「山に散策に行こう」と言う。
若い女モデルはスタスタと歩く、中年女性は必死の形相でハァハァ言いながら体力の無さを全身で表現している。
切り立った岩の上、壮大な海が広がる、すばらしい景色。
満身創痍の中年女性、ゼーハーしながら岩に座る。
ここで、何かが起きるのか?と期待する私。
案の定、何も起きない。
登った岩を下る2人。
先を行く女モデルは、大声で中年女性を呼ぶ。
「アビゲーーーーーイル!早く来て!!!」
1mmも体力が残っていない中年女性は、ヒーヒー言いながら下る。
そこは、砂ではなく石の浜だった。
岩を下りきると中年女性はその場に座り込む、体力の限界だ。
そこで何かを見ている女モデルが言う。
「見て、あそこ」
「エレベーターがある!」
……。
衝撃の展開、とはならずウスウス気付いていたけどね。
そう、ここはリゾートの島。
遭難者たちのすぐ近くに、リゾート施設があったのだ。
女モデルは、中年女性の腕を取り「早く行こう」と急かす。
中年女性は「少し休む」と言い座り続ける。
中年女性の隣に座る女モデル、2人は「生存の確信」を抱き合って喜んだ。
中年女性は、エレベーターに乗る前に「オシッコしたい」と言い出す。
女モデルは「分かった、待つよ」と言い、浜に座り海を眺めている。
中年女性は、女モデルの背後にある岩陰に座り込む。
ゴソゴソと動く中年女性。
そう、もうおわかりだろう。
中年女性の手には、殺傷能力が高そうな石が。
火曜サスペンス劇場のような、頭上から振り下ろしやすい重さの、中年女性が持ちやすいサイズの石である。
中年女性は、女モデルの背後からジワジワと近付く。
足元には石がゴロゴロあるので、歩く音は普通に聞こえる。
抜き足差し足、忍ばない足で近付く中年女性。
そのとき!
石を振り上げて、女モデルに!
というタイミングで、女モデルは海を見ながら、背後に居る中年女性に言う。
「帰還できたら、アナタを雇ってあげる」
サバイバルでは女王様だった中年女性が、生存確実となった今では「無職の中年女性」に成り下がったのだ。
場面は変わって。
草むらを懸命に走る男モデル。
どこに行こうとしているのか、まったく情報が出てこないけど、とにかく必死に走る男モデル。
ここで、END。
BGMとともにスタッフクレジットが流れる。
いったい、なんだったんだ??? まじイミフ。
という映画でした。
皮肉の奥にあるもの
以前観たブラックコメディ映画「ザ・メニュー」もそう、皮肉めいた風刺の効いた作品だ。
ブラックコメディ(ブラックユーモア) | 倫理的に避けられているタブー(死・差別・偏見・政治など)への風刺や、ネガティブ・グロテスクなど流血などの内容を含むダークな笑い、ユーモアを指す。 | 通常のコメディとの大きな違いは、通常のコメディがプラス要素の笑いであるのに対して、ブラックコメディはマイナス要素の強い笑いである。 | 「笑い」にすることで深刻な問題を誰にでも伝えやすくする効果もある。 |
その根底にあるものは「復讐」。
皮肉を効かせることで、復讐を果たしている。
これは白黒もしくは善悪をハッキリさせる外国の考え方ゆえのことだろう。
復讐、報復、仕返し、あだ討ち、敵討ち、御礼参り、大昔には日本にもこういった報復はあったが、現代では聞くことはない。
日本独特の考え方「しかたない」がある。
現況を理解して受け入れたうえで、飲み込む。
これは外国では理解しにくいことらしい。
現況 | 現在の状況 | 自分では変えられないものについて使う |
現状 |
現在の状態 | 自分で変えることができるものについて使う |
最後に
この映画を観て、明確に気付いたことが1つ。
私は「皮肉めいた風刺の効いた作品」が苦手だ。
皮肉 | 遠まわしに言ったり、わざと反対のことを言ったりして非難すること | アイロニー |
風刺 | 会や人の欠点や問題を遠回しに批判したり、批判を嘲笑的に表すこと | 国家や組織、人物等の愚かしい所や欠点を暴く際に用いる表現技法として使われる事が多い。 |
説明がないと理解できないし、その世界を知らないので、皮肉も風刺もわからない。
どうしても「どういうこと??」と分からなくなる。
皮肉とは、オリジナル(原作)のパロディ(いじり)だ。
オリジナルが先で、パロディが後。
オリジナルを知らなければ、パロディは活きない。
つまり、オリジナルを知らなければパロディをパロディと思えずにオリジナルと思ってしまう。
古畑任三郎を知らなければ、ハリウッドザコシショウの誇張したモノマネが理解できないのと同じ。
ガリレオの湯川先生を知らなければ、ハリウッドザコシショウの誇張したモノマネを理解できないのと同じ。
皮肉を理解するには教養が必要だということを痛感した。
これは文化や風習の違い、そしてその国の人の考え方によるものなので、その違いや表現を噛み砕いて飲み込むことができない。
経験のないことを想像して理解しようと試みるも、やはりうまくいかない。
コメディとしてではなく、現実として理解しようと頭が動く。
これはどうしようもない、苦手なジャンルだ。
もっと教養を身につけねば…。
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