映画「ウーマン・トーキング 私たちの選択」を見た感想<一部ネタバレあり>

映画鑑賞の感想文

実話を基にした、自分たちの尊厳を守るために語り合った女性たちの物語。

映画『ウーマン・トーキング 私たちの選択』公式|6月2日(金)全国公開
アカデミー賞®ノミネート!フランシス・マクドーマンド×ブラッド・ピット プロデュース、サラ・ポーリー監督・脚本で贈る、実話を基にした女たちの物語

あらすじ

自給自足で生活するキリスト教一派(メノナイト)の村で起きた連続レイプ事件。

女性たちは男たちに訴えるも「悪魔の仕業」「作り話」だと否定されていた。

ある日、それが実際に犯罪だったことが明らかになる。

タイムリミットは、男性たちが街へと出かけている2日間:48時間。

緊迫感のなか、尊厳を奪われた彼女たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う。

キャスト

主な登場人物は、3つのファミリーと、書記の男。

スカーフェイス家

スカーフェイス・ヤンツ フランシス・マクドーマンド 最年長
アナ キーラ・グロイオン ヤンツの娘
ヘレナ シャイラ・ブラウン アナの娘

※スカーフェイス(scarface):傷のある顔を指す言葉

フリーセン家

アガタ ジュディス・アイヴィ 最年長
オーナ ルーニー・マーラ アガタの長女
サロメ クレア・フォイ アガタの次女
ナイチャ シヴ・マクニール 次女サロメの姪

※ナイチャの母親:娘のレイプを知った後に自殺した。

ローウェン家

グレタ シーラ・マッカーシー 最年長
マリチェ ジェシー・パックリー グレタの長女
メジャル ミシェル・マクラウド グレタの次女
オーチャ ケイト・ハレット 次女グレタの娘

書記の男

オーガスト シベン・ウィシュー 書記の男

大学を出て教師をしている。

教育を受けているので「読み書き」ができる。

上映映画館

2023年6月2日公開。

しかし、公開から2週間で上映終了となる映画館が多い。

ウーマン・トーキング 私たちの選択 劇場情報
ウーマン・トーキング 私たちの選択の公開劇場一覧ページです。

こういった重い映画は早々に打ち切られてしまう、とても悲しい。

時期をズラして上映する映画館もあるので、ぜひチェックしてほしい。

製作会社:プランBエンターテインメント

2002年、ブラッド・グレイ、ブラッド・ピット、ジェニファー・アニストン、クリスティン・ハーンが設立した映画製作会社。

2006年以降はブラット・ピットが所有者となっている。

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以前観た映画「SHE SAID その名を暴け」を製作したのも、プランBエンターテインメントである。

メノナイト

原作者:ミリアム・トウズはメノナイト出身。

ボリビアのマニトバ州にあるメノナイト共同体で実際に起こった出来事。

メノナイトは、16世紀にプロテスタントの宗教改革の一環として誕生した超保守的なキリスト教の教派。

基本的に、共同体・生活の質素さを重視して16世紀あたりの生活を維持しており、現代的な技術や物質主義を避けることが多い

それを続けると最後の審判で選ばれ天国へ行ける、という信仰。

ナノメイトにとって1番重要なのは「平和主義」であり、暴力を禁止しており、戦争への加担を禁じている。

ナレーション

ナレーションから始まる。

これはあなたが産まれる前の話

ずっと誰のことなのか分からなかった。

この声が、誰なのかも。

最後、全てが繋がる。

いつの話?

近代的なものが何ひとつ無い環境。

これは、いつの時代の話だ?

住人は、同じような色と柄の服を着ている。

まるで制服のようで、個々の個性を完全に潰した服。

閉鎖されたコミュニティ

生い茂る作物、広がる畑、楽しく笑い合う子供たち。

見渡す限りの畑と響き渡る子どもたちの遊び声、祈りと信仰が支える穏やかな日常。

それは永遠に続く平和な暮らしのはずだった。

少女たちの肉体に次々と異変が起こり出すまでは。

外界から遮断された閉鎖的なコミュニティ。

それが外部に流出することは無く、そこでの暮らしそのものが絶対的なルールや法律になり、揺るがない価値観になり、どんな出来事も正当化される。

閉鎖 人やものが出入りできないようにする
遮断 流れをさえぎって止めること

目覚めと始まり

なんとなくスッキリとしない目覚め、どこか夢見心地で浮遊感がある。

目覚めて気付く、自分の体の異変に。

叫びで始まる朝、アガタは娘:オーナの体の異変を目にしながら、抱きしめることしかできない。

オーナの内太ももにアザがあった。

また、ある人は出血していた。

こうした女性たちの話を男性たちは「作り話だ」とか「罪深い行いの証拠だ」と取り合わない

ある晩、寝室に忍び込んできた青年に気づき、少女が叫び声を上げたことで事態は動く。

ここで、夢や作り話とされてきた女性たちの訴えが現実」であることが証明された。

男性たちの暴力

家畜の牛に使う麻酔薬(噴霧器)で女性を昏睡させ、その体にアザや出血するほどの暴力的なレイプをする。

妊娠しても誰の子かわからない

娘を産めば、いつか娘も同じ目に遭う可能性がある

息子は、男性たちと同じことをする加害者になってしまう

傷跡

ヤンツの顔の傷は、コミュニティにおける女性たちへの暴力が長年かつ広範囲に及ぶことを意味している

グレタは、レイプされた際にいくつもの歯が折れたため、サイズの合わない大きな入れ歯をしている。

女性たちには「縄による火傷や切り傷によるかすかな傷痕」が残っている。

タイムリミット

犯人たちは逮捕され、街へと連行された。

犯人の保釈金を支払うため、村の男たち全員が街へと外出する。

男たちが帰宅するのは2日後、タイムリミットは「48時間」

この時間内に決断行動をしなければならない。

投票

女性たちは住民投票を実施する。

投票用紙には 3 つの選択肢があり、それぞれがイラストで表されている。

投票用紙がなぜイラストなのか、それは女性たちは読み書きができないからだ。

  1. ゆる
  2. 残って闘う
  3. 出ていく

投票に列をなす女性たち全員が被害者と思うとゾッとする。

違い

「出ていく」と「逃げる」は違う。

記録

一度コミュニティから出て、大学で学んで帰郷した教師のオーガスト。

読み書きができるので会議の記録係として任命される

オーガストはとても優しい男、ゆえに村の男たちからは「男らしくない」と言われ冷遇されている。

学校に通えるのは少年と青年だけ。

学校が映るシーンでは、女性が全く居ない。

教育を受けさせてもらえない女性たち。

女性たちだけが原始的な生活を強いられている。

記録は、未来への手紙。

話し合い

限られた時間内での解決を図るため、フリーゼン家から4人、ローウェン家から4人の計8人の祖母・娘・孫・姪たちが、膠着こうちゃく状態を打開するために議論を任された。

「赦す」の代表格、スカーフェイス・ヤンツが「破門のリスク」と「信仰による赦し」を訴え、その場を去る。

怒髪天どはつてんく勢いで闘う姿勢を隠さないのは、アガタの下の娘:サロメやグレタの娘:メジャル。

特にサロメのほとばしる殺意、スクリーンから伝わってくる。

メジャルの姉:マリチェは、赦さざるを得ないと半ば諦めかけている。

アガタの上の娘オーナは、父のわからぬ子を宿し、白熱する会話を静かに聞いている。

議題は女性をレイプした男性たちへの怒りから、犯人を駆り立てた男性のヒエラルキー見過ごしてきたリーダー、やがてはそういった男性たちを容認してきた自分たちへと向かっていく。

誰が悪いのか、何をすべきなのか。

自己の決断と信仰に、どう折り合いをつけるのか。

当たり前とされてきた日常を、これからどうすればいいのか。

女性たちが優先すべきなのは「子供たちを守ること」なのか。

それとも「宗教において威厳を持つ男たちに従うこと」なのか。

自分たちを「組織的」にレイプし続けてきた「1番近しい男たち」との「今後」について考えなければならない

男たちが居ない2日間、女たちは話し合う。

男性の描かれ方

加害者は直接画面では描かれず、暴力を振るった男たちの個々の動機や特徴についても議論されない。

愛する人たちを守るために「男性全員を加害者」とするのか、それとも男性を「教育」によって変えられる存在と考えるのか。

加害者をどうするのかではなく、被害者である自分(女性たち)はどうしたいのかを描いている。

宗教と信仰

死後に天国に行くために赦す、それが信仰であり、価値観であり、信じている。

自分の死後に天国へ行くために赦すのか、これから先の長く続く未来のために出ていくのか。

虐待を踏まえて信仰をどのように維持するか。

犯罪者を許さない場合、本当に天国に行けなくなるのか。

沈黙

声を持たない世界に有るのは「沈黙」だけ。

女性たちのとって「沈黙」は、身を守るための唯一の手段である。

時として沈黙は「YES」という許可になってしまう。

赦し

天国で全員の居場所を保証するために、女性たちに男性たちを赦す機会が与えられ、男性を許さない女性は破門されるという。

赦しはキリスト教的ならモラルの中核にあるが、この場合の赦しは「男たちの搾取行動への許可と取られてしまうのではないか」と危惧する。

ゆえに赦しは「許可」として誤用される

赦し 罪や過失を咎(とが)めないこと
許し 相手の願いや申し出を受け入れたり認めること

心から赦すのと、自分を抑え込んでムリヤリ赦すのは違う

教育と虐待

教育を受けさせない=自主性を与えない。

集団の中で発言どころか、意見を持つことも、知識を持つことも禁じられた女性たち。

家父長的な構造がいかに「女性の虐待」や「抑圧」につながり、こうした構造が宗教の教えや伝統を通じていかに根深く残るか。

宗教的な信念や習慣は信仰者にとって安らぎの源であると同時に、解釈によっては抑圧のための潜在的な道具、もしくは解放のために必要な指針として描かれる。

虐待から守るのではなく、黙認することで虐待に加担して見過ごしてしまったこと。

これもまた虐待。

不安

ヤンツは、破門と追放のリスクが大き過ぎる。

サロメは、男たちへの復讐を訴え、神の怒りを恐れない。

マリチェは、自分たちが闘いに負けて男たちを赦さざるを得なくなるかもしれないと怯える。

このまま男尊女卑に従うしかないのか。

去ることへの不安、行く宛てはあるのか、どうやって暮らしていくのか。

確証が無ければ不安は積もるばかり。

女性たちが考えるべきなのは「生き抜くこと」なのか?

村では多くの仕事を女性が担っているため、女性たちが去って困るのは男性たちでは?

男たちを見捨てるなら、少年はどうする?

そもそも少年はいつから男になる?

暴力の連鎖を止めるにはどうすればいいのか。

コミュニティを去るのが怖い。

外の世界を知らないから。

未来を描くこともできない。

現代のDV被害者に似ている、思考力と決断力と行動力を無気力が奪う。

自分に向かってくる暴力によって、その限界を超えた先に希望があるのかわからず、未知へと踏み出せない。

それは、どう生きるかということより恐ろしいことである。

議論

オーナとマリチェ、自分の主張をぶつけ合い、議論している。

オーナが「ごめんなさい」と謝る。

あなたはこれ以上傷ついてはいけない、だからごめんなさい」とあやまる。

ここで号泣する私。

議論(ぎろん) お互いに意見を述べ合い、論じ合うこと 出された意見の中からベストな結論を導き出すこと グループ内で協力して1つの結論を出すこと
討論(とうろん) お互いに意見を出し合い、議論を戦わせること 相手の意見を論破して勝敗を決めること、出された意見の中から最も優れているものを決めること 賛成派・反対派で分かれ、それぞれが有利なように主張し合うこと
論議(ろんぎ) お互いに意見を出し合い、道理にかなっているか、道理からはずれているかを論じ合うこと 議題に対して、参加者の意見を照らし合わせ、より建設的な答えや解決策を導くこと 意見交換

日本では議論の訓練をしない

マンガ:ミステリと言うなかれ 9巻「誰も寝てはならぬ」より


読書感想文は、自分の考えを外に出す。

自分の意見をちゃんと言うのは大切なこと。

嫌なことはイヤだ、と。

辛い、苦しい、しんどい、傷付いたなど、きちんと伝えないといけない。

それと同時に、気持ちとは関係ない「意見のやり取り」をできるようになってほしい。

日本ではその訓練をしない。

意見を言い合っているだけなのに、いつしか人格否や人格攻撃になってしまう。

口論ではなく議論をする。

「りんご」について議論の練習。

りんごの良いところを言う人と、それに反論する人。

A子
A子

りんごは赤くてキレイ

B子
B子

いちごも赤いよ

A子
A子

りんごはツルッとしていてピカピカ

B子
B子

トマトも同じよ

A子
A子

りんごはベチョッとしてなくてシャキッとしてる

B子
B子

それって良いところなの?

反論は攻撃ではない、ただ「りんごの話」をしているだけ。

教育

(この作品において)教育には時間が必要だ。

長年つちかってきた既存の価値観を見直して間違いを認めるからだ。

教育とは、正反対の価値観を認めて受け入れることになる。

緊張と緩和

緊張が走る瞬間があった。

  1. 音楽と調査
  2. さくらんぼ

音楽

作中、とある音楽が流れる。

多くの人が知る、あの音楽。

ぜひ、歌詞の意味を調べてほしい。

色が持つ印象

ほぼ色が無いモノクロ調。

印象的な色は、スクリーンいっぱいに映し出された「固く繋がれた手」と「洋服」。

私はここで初めて色を意識した。

実話を基にした映画(ネタバレ注意)

「Women Talking」は、カナダ人作家:ミリアム・トゥーズによる7冊目の実話小説。

ボリビアのサンタルスクから約93マイル離れた場所にある、約2,000人が暮らすメノナイトコミュニティであるマニトバ共同体での出来事。

「外の世界」から隔離さらた状態で営まれる村で、2011年に数百人の女性・少女をレイプ性的暴行を数ヶ月、または数年に渡り繰り返し続けたとして、共同体内の男性8人が有罪判決を受けた

夜、村が寝静まった頃、家畜用の麻酔薬(ガス)で鎮静された女性たちは次々に襲われレイプされた

最年少の被害者は3歳、最年長の被害者は65歳

教育を受けることを許されない女性たちは、自分たちに何が起きているのかわからず「悪魔が棲み着いている」と糾弾されることを恐れ、さらに保守的な教えから独自の言語しか話せず、外界から遮断された状態で被害を受け続けた。

2011年に事件が明るみに出た際、「言葉の力」を持たされていなかった女性たちは、当初法廷で証言することを拒んだ。

しかし少しずつ声を上げ、少しずつ真実を明かす選択を取った。

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最後に

地平線のさらに先の、見えないところまで続く長い道のり。

覚悟を決めた女性たちの力強い足取りは、未来への希望だ。

共存とは何か。

平和とは何か。

人によって異なる。


ものすごい情報が詰まった作品だった。

赦し、信仰、権力の構造、トラウマ、癒し、過失、コミュニティ、自己の決断。

その中で、唯一の救いがあった。

女たちが選んだものが希望であった、それが唯一の救い。

私にとっての、救い。

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